前回、製造業の海外移転が昨年の夏ごろから急増していることを述べた。これは、経済危機後の日本経済の構造が大きく変わりつつあることを示すものだ。
東日本大震災による経済条件の変化は、この方向を加速させつつある。海外移転の進展次第によっては、日本国内の雇用に甚大な影響が生じる。このことは、今後の日本経済を考える際の重要なポイントだ。そこで以下では、海外生産の状況を概観しよう。
経済産業省の「海外事業活動基本調査」(2010年7月)によれば、09年度における日本の製造業の海外生産比率推移は、国内全法人ベースで17・2%、海外進出企業ベースで30・7%だった(ここで、「国内全法人ベース」とは、現地法人売上高と国内法人売上高の合計に対する現地法人売上高の比率であり、「海外進出企業ベース」とは、現地法人売上高と本社企業売上高の合計に対する現地法人売上高の比率である。つまり前者は日本の製造業全体についての海外生産比率であり、後者は海外進出している企業についての海外生産比率である)。
国内全法人ベースでの海外生産比率は、業種によってかなりの差がある。食料品、木材・紙・パルプ、石油・石炭、金属製品では5%以下の低い比率であるのに対して、機械産業の比率は高い。とりわけ、情報通信機器は26・1%、輸送機器は39・3%という高い水準になっている。大企業によって行われている組立型の生産活動は、すでにかなりの程度、海外に移ったことがわかる。
自動車について企業別に海外生産比率を見ると、ホンダ72・9%、日産71・6%、スズキ61・5%、トヨタ55・9%となっている。ホンダや日産においては、生産の過半は海外で行われているわけだ。
なお、以上で見たのは、日本に本社を持つ企業が現地法人を設立して海外での生産を行う方式だ。これら以外にも、OEM(相手先ブランドによる生産)メーカーやファウンドリー(半導体チップの生産工場)への委託による海外生産も行われている。