資生堂「中国で不買運動」処理水問題に続く大懸念 藤原社長「今後も中国は重要」日本は構造改革へ

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さらに「日本の大手化粧品メーカーは、インバウンドで売れる定番商品ばかりをアピールし、目新しさに乏しかった。中国メーカーは消費者ニーズを巧みに捉えた商品開発で、売上高を伸ばしている」(中国向けのSNSプロモーションや市場調査を行う中国市場戦略研究所の徐向東代表)。

資生堂の藤原社長は「圧倒的な規模を持つ中国市場は変化しているが、今後も当社にとって重要。成長領域を絞り込んで、高収益な事業体制に転換していく」と意気込む。

処理水問題の前から、資生堂は中国事業で課題を抱えてきた。ここ数年はECで大セールが行われるたびに、インフルエンサーに高額な宣伝費を支払い、大幅な値引き販売を行って「質より量」の施策を進めてきた。

しかしブランドの知名度が向上した反面、宣伝費用が膨らんで値引き販売も常態化。“負のスパイラル”に陥ったことで、前2022年度の中国事業のコア営業利益は39億円の赤字に転落している。今後はセールの売上高構成比を下げる方針だが、一度染みついた消費者の価格感覚を変えていくハードルは高そうだ。

インバウンド頼みからの脱却厳しく

株式市場からの評価は厳しく、資生堂が下方修正を発表後の11月13日の株価は年初来最安値まで下落してストップ安となった。

もう1つの柱である日本事業も、中国人客が需要の大半を占めていたインバウンドが蒸発したことで冴えない。今期第3四半期(1~9月期)はコア営業赤字2億円(前年同期は同59億円の赤字)に沈む。資生堂は国内のインバウンド需要が2025年に2019年対比で7〜8割程度まで回復すると見込むが、中国人訪日客1人当たりの化粧品購入単価は低下傾向にある。

「今、変わらなければ日本事業としての存在意義すら危ぶまれるという強い危機感がある。改革のレベルを考え、自分でやるべきだと判断した」

8月の決算説明会で藤原社長はこう語り、9月から日本事業を担当する資生堂ジャパンの会長を兼任してきた。2024年末にかけて、早期退職制度の活用など人材関連100億円を含む250億円の収益改善施策を進める方針だ。2025年には日本事業のコア営業利益500億円のV字回復を目指す。

これから資生堂は中国市場やインバウンドとどう向き合うのか。まさに難題が山積している。

伊藤 退助 東洋経済 記者

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いとう たいすけ / Taisuke Ito

日用品業界を担当し、ドラッグストアを真剣な面持ちで歩き回っている。大学時代にはドイツのケルン大学に留学、ドイツ関係のアルバイトも。趣味は水泳と音楽鑑賞。

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