SBの呪縛から解放?「アーム」がもてはやされる訳 独自の設計思想を持つ半導体会社の成長戦略

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アームはさらに、GPUコアも独自に開発、「Mali」という製品名で提供している。10年以上前から提供してきたが、最近は、よりリアルなビジュアル体験ができる高性能版「Immortalis」シリーズも追加。

さらにGPUの積和演算(2つの掛け算を次々に足していく計算で、AIで用いられるニューラルネットワークのモデルに合う)を強化してメモリーを集積したAIプロセッサーコアも開発するなど、幅広い用途に対応する製品を開発している。

スマホ以外の分野にも乗り出す

同社はIPコアを使って半導体ICを設計できるようにしているだけではない。そのICを使った、コンピュータなり、スマートフォンなりのシステム全体から見た技術も熟知している。

代表的例が、「bigLiTTLEアーキテクチャー」だ。これは性能を優先するCPUコア(コア1)と、消費電力を優先するCPUコア(コア2)を集積し、演算能力が欲しい場合はコア1を優先させ、演算が必要ない場合にはコア2を優先することを可能にする。この方法は、他のプロセッサーメーカーも採用しており、CPUの消費電力を下げる主要技術となりつつある。

セキュリティーについても強みを持つ。安全ではないデータ(ブラウザで閲覧している時など)はセキュアではない部屋に、安全なデータ(重要メールを送るときなど)はカギのかかる認証が必要な部屋にデータを保存する、という技術や、たとえデータが盗まれても読めないようにしておく暗号化処理、攻撃されたことを可視化する技術などを開発している。

「低消費電力」にこだわってきたアームはこれまでスマホ市場を席巻してきたが、これからはさらにコンピューティングや自動車市場で存在感を示していくだろう。PCといえば、インテルの牙城だが、ついにここへも切り込んでいくことになるわけだ。11月になり、クアルコムがアームのCPUを搭載した新型プロセッサー「Snapdragon X Elite」をパソコン向けにリリースした。

さらに今後は、AI機能を強化していくことが見込まれる。具体的には、AI専用のプロセッサーを強化していくことになるだろう。

一口にAIチップと言ってもその種類はさまざまだ。大量に学習しなければならないGPT-3やGPT-4などの生成AIには大量の積和演算回路とメモリーが必要となるのに対して、PCやスマホ、ウェアラブルデバイスなどで使う場合には消費電力の低い、ほど良い規模のAIチップが望ましい。

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