半導体界における実力派のアームだが、これまでの動向を見ていると、孫正義氏率いるソフトバンクに買収されて以来、同社に振り回されているというよりほかない。今回、株式上場に踏み切ったのも、2022年初めに起きたエヌビディアとの統合失敗がきっかけとなった。
そもそも、アームのIPコアはどの半導体メーカーにも販売できるというオープンなビジネスモデルだ。ところが、エヌビディアという半導体メーカーにアームの組織が取り込まれてしまえば、ほかの半導体メーカーはアームから購入しにくくなる。購入する半導体メーカーの次世代チップの仕様が漏れてしまう恐れがあるからだ。
実際、クアルコムやメディアテックなど多くの半導体メーカーがエヌビディアの買収に反対していた。幸い、アメリカ司法当局の独占禁止法の恐れがあるという判断で、買収が許可されなかった。
ソフトバンクは自社が出資する他企業の損失を穴埋めする目的で時価総額の高いアームを売却しようと考え、同じく同社が出資するエヌビディアへの売却を模索したもののうまくいかず、ならばキャピタルゲインで、と上場したわけである。
中国事業をめぐって両社に「隙間風」
もっともそれ以前から、ソフトバンクとアームには隙間風が吹いていた。ソフトバンクがアームを買収した当時は、アームの経営陣は喜んでいた。それまで上場企業として、株主から短期的な利益の追求ばかり迫られていたからだ。孫氏は長期的な研究開発に理解を示し、短期的な利益は考える必要はないと述べ、アームのエンジニアたちも買収を歓迎していた。
ところが、2020年6月に中国のアームチャイナを巡って両社に亀裂が入る。イギリスのアーム本社が、アームチャイナCEOを利益相反の開示を怠るなどの不適切な行為をめぐって取締役会で解任を決議したが、これに対しアームチャイナはすべての業務は中国の法律に基づくものであり、通常通り業務を続けると反論した。
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