「具体と抽象」で朝令暮改の上司の謎が解ける なぜあの人は言うことがコロコロ変わるの?

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別の切り口で考えれば、抽象レベルのメッセージは変わっていないのに、それは2週間前と今日では具体的には「同じように見えるもの」でも実は日々刻々と「違う」ものに変化しているという点で、具体と抽象との間にギャップで出てくるというわけです。

具体と抽象を自在に行き来しよう

たとえば、「あの人は去年A社の株を買ったほうがいいと言っていたのに、先月はB社だと言い、今月になったらC社だと言い出した。まったくコロコロ話が変わって困る」という発言は、さまざまな状況変化によって起こったことではあるものの、根っこにあるこの人の抽象としての投資のポリシーは、「有望な先端技術を持った会社を買収した会社を狙え」かもしれません。

さらに一般論として言えば、抽象としてのポリシーが「過去や前例にこだわらずに最新の情報をもって意思決定すべし」ということであれば、具体的に言っていることが朝令暮改に見えたとしても抽象としてのポリシーはまったくぶれていないと言うこともできます。

これはたとえば、上司や政治家の発言でも同じことが言えないでしょうか。「状況が変われば同じことは違うことになるかもしれない」というのも、具体と抽象がなせるわざだということです。

「朝礼暮改」という言葉がありますが、一般的に言えば、ものごとを具体的にとらえる人にとってみれば「言うことがコロコロ変わる」悪いことであり、抽象的にとらえる(「変化には迅速に対応すべし」)人には好ましいことととらえられるのではないでしょうか。

細谷 功 ビジネスコンサルタント、著述家

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ほそや いさお / Isao Hosoya

1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業後、東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(クニエの前身)に入社。2009年よりクニエのマネージングディレクター、2012年より同社コンサルティングフェローとなる。問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の大学や企業などに対して実施している。

著書に『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』、『アナロジー思考 「構造」と「関係性」を見抜く』『問題解決のジレンマ イグノランスマネジメント:無知の力』(以上、東洋経済新報社)などがある。

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