理研改革はJカーブでなくγカーブで進める 松本紘・理研新理事長に聞く
――ご著書「京都から大学を変える」(祥伝社新書)からは、京都大学での改革をトップダウンでぐいぐいと進められたような印象を受けます。
いやいや、大学や研究機関の改革をトップダウンでやるのは不可能ですよ。すべての人の利害が一致することはありえません。多くの人が普遍的と思える改革であっても必ず一定の数の反対はあります。実際、京都大学の教員3000名のうち20人が最後まで反対した事案もありました。このような場合、大学ではペンディング事案として残し、最終決定をしないのが普通です。しかし、20人の反対のために、大多数の意見を無視することになるのはよろしくない。
たとえば、京都大学で、教養教育(学部教育)がおかしいから変えようという議論は15年も継続していました。それだけの議論の積み重ねがあり、毎年議事録も出されている。にもかかわらず、何も実践されていなかった。そこで、「議論は十分に積み重ねてきたので、あと1年で終わりにしましょう、これからは実践のときです。具体的な案を出して下さい」といいました。そうすると半年程度で部局単位の案が出てきます。それから担当教授らと議論を重ね、反対があれば説得し、2年かけて改革を進めることができました。
中期計画の成果を最大化するための体制が必要
――京都大学では学部だけでなく大学院や産学連携など多くの改革の実績を挙げています。理研でも改革を期待されているのでは。
それは考えたことがないですね。理研は本来長い歴史があり、さまざまな成果を残してきた。学問的にも産業に対しても大きな貢献をしてきています。ただ、理研には3年後を目標とする中期計画というミッションがあります。その成果を最大化するためのベストプラクティスは何か、と考えたときに、軌道修正は必要だと思います。そのために新しい体制を作る必要があります。
理研の研究体制は二重構造になっています。ひとつは昔から「研究者の楽園」といわれてきた主任研究員制度。主任研究員が、自分の思うようにチームを組み、研究を進める。大きな予算は付かないが、終身雇用ですから、落ち着いて研究を進めることができる。もうひとつは国からのミッションを行う戦略センターで、こちらは大きな予算がどんと付く反面、有期雇用でミッションが終われば解散です。現在は18のミッションが走っています。
しかし、研究は短期でやるものではないし、ちょうど研究に脂ののった段階で定年を迎えることや、任期が来ることもある。また、本部予算も縮減される中で、競争資金を獲得しなければなりませんが、あまりあおり立てることもよろしくない。こうしたことが長く続くと、挑戦的な研究が出なくなります。もちろん地道に積み重ねる研究も必要ですが、一方で突き抜けたチャレンジャーも、科学技術の発展のためには必要なのです。
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