私はずっと、日本の20世紀はパッションの時代、21世紀はロジックとエビデンスの時代だと言ってきました。かつては、ふわっとしたパッションだけで何かを語っていればよかったんです。
よく知られているのが「風の息づかい」論です。2005年に起きたJR羽越本線脱線事故で、『毎日新聞』の社説が「風の息づかいを感じていれば(事故の原因となった突風の)気配をつかめたのではないか」と批判しました。いかにも20世紀の日本的な書きぶりです。
しかし今、特にインターネット上では、そんなパッションよりもロジカルであること、エビデンスがあることが重視されています。AIとの対話が増えれば、人間のコミュニケーションにも大いに影響を与え、今後ますますロジカルとエビデンスが重要になってくると思います。
専門性を高め、その道のスペシャリストに
さらに今の社会を難しくしているのが、それぞれの分野で専門性が高まっていることです。SNSで少し専門的な分野について意見を言おうものなら、その道の専門家や研究者がたちどころに現れ、詳しく意見を言ったり反論したりします。したがって、ある分野の知識をどこまで深めるかは見極めが難しいのです。
とはいえ、これからはジェネラリストではなくスペシャリストが求められる時代であることは間違いありません。今の若い人は管理職になりたがらないという話を耳にしますが、気持ちはわかります。残業手当がつかなくなるという金銭的な理由もありますが、何より管理職というマネージャーになっても得られる知見がないですから。
私の知り合いで、広告デザイナーとして転職を繰り返し、キャリアを積んできた女性がいます。最初は広告制作会社でデザインの基礎を学んでいましたが、10年ほどして、全体の中の広告の位置づけを知りたいとメーカーの広告制作部署に転職しました。さらに最先端のアドテックを学びたいとテック系の広告会社に行き、今ではデジタルメディアについて勉強を続けています。
彼女は、管理職の仕事が来ると断ります。でも、時代の変化をつねにキャッチアップしているから40代になっても転職できるし、若手が出てきても恐るるに足らず。余人をもって代えがたい知識とキャリアを身につけているのです。
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