10月31日、フランスのパリ13区の駅でベールに全身を包んだ女性が「アッラー・アクバル」(神は偉大なり)と叫び、自爆テロの緊張が高まった。警察の命令に従わない女性に警察官は8回発砲し、女性は無力化され病院に運ばれた。10月初旬にはフランス北部アラスの高校で、チェチェン出身でその高校の卒業生の若者が、学校前で「アッラー・アクバル」と叫び、同校の教師を刺殺する事件も発生した。
フランスには欧州最大のアラブ系住民600万人と60万人近いユダヤ系住民がいる。ダルマナン内相および仏ユダヤ人団体代表評議会(CRIF)によれば、連日、キッパ(ユダヤ人男性が頭部に着用)姿の男性が路上で嫌がらせを受け、ユダヤ人学校、ユダヤ礼拝堂シナゴーグなどに匿名の爆弾予告が寄せられている。そのほか、ベルサイユ宮殿、ルーブル美術館などの観光スポットのほか、学校、空港、病院などへの匿名の爆弾予告があり、その通報者のほとんどがイスラエルによるガザ攻撃に反発する未成年者だ。
すでにパリ、ロンドン、ベルリン、ローマ、イスタンブール、アンマン、カイロなど、世界各地でイスラエルを非難する抗議デモが起き、ダゲスタン共和国ではイスラエルから到着した旅客機を襲う襲撃事件も起きた。フランスのみならず、イスラエルを非難する反ユダヤ主義行動が世界各地に飛び火中だ。
イスラエルの正当性を認める世論は弱い
建国75年を迎えたイスラエルを取り巻く環境は大きく変わろうとしている。建国以来、ナチスドイツによるホロコーストへの同情もあり、反ユダヤ主義は封印され、パレスチナとの度重なる武力闘争でもイスラエルの正当性が支持されてきた。戦後、世界中の政財界、法曹界にユダヤ人を送り込み、欧米のジャーナリストにもユダヤ人は多い。
ところが、ロシアが圧倒的戦力でウクライナ領土に侵攻し、和平の道が見いだせない中、イスラムテロ組織ハマスより圧倒的優位の軍事力を持つイスラエル軍が、ハマスの殲滅を掲げ、人間の盾とされるガザ市民を次々に殺傷する行為の正当性を認める世論は弱い。ハマスがイスラエルを攻撃し、一般市民を多数含むユダヤ人を殺害したことへの報復的正義をイスラエルが主張しても、同情によるイスラエル支持が高まるどころか、批判する声は世界中のユダヤ人の間にも広がっている。
つまり、建国から75年経ったイスラエルに対し、ジェノサイドを経験したユダヤ人に対する同情は風化しつつあり、実際、国連でイスラエル大使が「ハマスは新しいナチスだ」と連呼しても共感を呼ぶには至らなかった。
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