日本人が知るべき「反ユダヤ主義」拡散の深い背景 情勢は複雑だが、無知であるリスクは非常に大きい

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異文化理解を妨げるのは固定観念や先入観と言われる。とくに宗教の影響は非常に大きい。なぜなら、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は旧約聖書を共有する一神教ではあるが、それぞれが異なった世界観、普遍的とする価値観を持っているからだ。過去にはキリスト教十字軍によるムスリム弾圧など異教徒間の残虐極まる血みどろの戦いを繰り広げた過去もある。

その対立の多くは相手に対する固定観念や先入観が影響を与えた。そのいい例が旧約聖書に出てくる報復的正義を象徴する「目には目を、歯には歯を」という報復の正当化理論や相手との優劣を固定化する選民思想だ。今回のイスラエル軍によるガザでの無差別攻撃も「選民意識の強いユダヤ人は、パレスチナ人を人間以下の動物と思っているので、無差別殺戮に良心は痛まない」という指摘もある。

ところがイスラエル国内でもパレスチナの一般市民殺害は即座に中止すべきと主張するユダヤ人は増えており、2012年のガザ攻撃では90%以上のユダヤ人がガザ攻撃を支持したが、今の世論は様変わりしている。

イスラエルの強硬姿勢の背景

一方、政治・外交の宗教化は大きな懸念材料だ。

2022年12月下旬、イスラエル史上最も極右かつ宗教的な政府が発足した。ネタニヤフ首相とリクード党が率いる政権は、連立を組む超正統派や宗教政党など連立6党で構成され、財務相として「パレスチナの村殲滅」など過激な発言で知られる右派「宗教シオニズム」のリーダー、ベザレル・スモトリッチ氏が入閣した。

閣僚の中にはヨルダン川西岸のパレスチナ自治区へのユダヤ人の入植を推進する政策を主張する人物はほかにも多い。その中心にいるのが宗教シオニズムを掲げる極右政党の連合「宗教シオニズム/ユダヤの力」だ。2021年3月の選挙で議席を倍以上に増やし、発言力を強めた。結果的にネタニヤフ政権のパレスチナ政策に対する強硬姿勢につながっている。

同政権が取り組む司法改革は、最高裁の判断を含む現在の司法のあり方がリベラルで世俗的すぎるとする批判から生まれた。新政権は発足直後に司法制度改革案を国会に提出し、その改革案の中でも最も問題となっているのが、国会が過半数で最高裁の決定を覆すことができる「オーバーライド条項」で、三権分立を弱体化させる条項と批判され、法曹界だけでなく一般市民には懸念が広がっている。反政府勢力は今年1月から週末になると、テルアビブなど各地で大規模な反対集会やデモを行っている。

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