備えと合わせて「台湾有事」をやらせない努力を 『安全保障の戦後政治史』著者・塩田潮氏が解説

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ただし、台湾有事の現実的な可能性については、否定的な見方も少なくない。

防衛相経験者の石破茂元自民党幹事長は、「現実問題として、中国の台湾への武力侵攻の可能性は、そう高くはないと思っています。われわれは冷静に抑止力を構築すべきで、その意味では『今日のウクライナは明日の台湾』みたいな言い方には論理の飛躍があり、懸念しています」と警鐘を鳴らしている。

国民民主党の代表代行兼安全保障調査会長の前原誠司元外相も、「中国の習近平主席は、台湾統一を領土奪還と考えていて、台湾全土が焦土と化すようなやり方ではなく、『和統』、つまり平和統一を狙っていると思いますね。サイバー攻撃を仕掛けたり、中国の資本が介入した後にごそっと抜けて産業的にダメージを与えたりとか、硬軟合わせていろいろとやってくると思います」と述べる。

偶発的な紛争がもっとも危険

前原氏はそのうえで「偶発的な紛争が一番、危ない。危険な行為による挑発がきっかけになるリスクはあります」と言い添えた。

世界のトップリーダーが冷静に合理的な判断を下すなら、台湾有事の現実的な可能性は必ずしも高くないかもしれない。とはいえ、実際にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領のような指導者も存在する。

偶発的な軍事衝突も含め、仮に台湾有事が現実となった場合、自国の安全保障との関係で、日本はどんな問題や課題に直面することになるのか。「危機を想定してつねに備えておく」という視点に立って考えてみた。

もし中国が台湾への軍事侵攻の一環として、沖縄県の尖閣諸島に武力攻撃を行った場合は、日本は、中国による直接的な領土侵害と位置づけ、自衛権の発動も含めて対応策を講じることになるだろう。

その際は日米安保条約第5条が適用され、アメリカが尖閣諸島の防衛活動に参加する。台湾統一が目的の中国は、その場面であえて日米両国を敵に回すような選択を行うとは思えない。尖閣同時攻撃という愚は犯さないのではないか。

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