備えと合わせて「台湾有事」をやらせない努力を 『安全保障の戦後政治史』著者・塩田潮氏が解説

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戦後、アメリカは中華人民共和国の成立後も、台湾の中華民国政府と国交を持ち、2国間の軍事同盟である米華相互防衛条約を締結して台湾を守ってきた。だが、1971年のリチャード・ニクソン大統領による「歴史的な米中和解」、ジミー・カーター大統領時代の1979年の米中国交回復に伴って、米華相互防衛条約が終了する。アメリカは国内法として、台湾防衛のために軍事行動という選択肢を大統領に認めることを内容とする「台湾関係法」を制定して、以後も台湾との関係を維持してきた。

その後、習主席の時代となり、中国は経済力と軍事力の拡大を武器に、世界制覇を狙い始める。米中の対立が顕著となった。

アメリカでは、バイデン大統領の台湾支援の積極発言と軌を一にして、軍関係者や中央情報局(CIA)長官などによる「台湾有事」の現実的可能性を強調する主張や分析が多発する。2023年侵攻開始説や、2024年1月投開票の台湾総統選挙の直後の有事発生説も飛び交った。習主席の任期満了や中国の人民解放軍創設 100年に当たる2027年までに台湾統一を完了させる計画では、と見る説も有力視されている。

政界の防衛専門家はどう見ているか

それでは、台湾有事が現実に生じる確率は高いのかどうか。

小野寺氏は前述の「東洋経済オンライン」掲載のインタビュー記事で、「軍事的側面から見れば、間違いなく中国は台湾への武力行使の準備を着々としています」「習主席は中国共産党の1つの党是として台湾統一を掲げています。(中略)歴史的に見れば、台湾はかつて中国共産党と国民党との戦いの中で、未決着の残された課題です。中国共産党による一党支配の正当性を明確にするためにも避けられない課題という意識でしょう」と分析し、「危機は、起こらないと思っていたときに起こってしまう。(中略)起こさないためには、起きる可能性を想定してつねに備えておく。それが一番、大事」と説いている。

「危機が起きる可能性を想定してつねに備えておくのが大事」という考え方と姿勢は、現在の東アジアの安全保障環境の下では肝要で、異論は少ない。残念ながら、戦後、日本で長く有力だった「軽軍備」路線では間に合わない時代が訪れたようだ。

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