備えと合わせて「台湾有事」をやらせない努力を 『安全保障の戦後政治史』著者・塩田潮氏が解説

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今、なぜ台湾有事が注目を集めるのか。

日本では、2021年4月のワシントンでの日米共同声明を思い浮かべる人が多いに違いない。1月に登場したアメリカのバイデン大統領が就任後、最初に会談する外国人首脳として、日本の菅義偉首相を選び、首脳会談を行った。その後の共同声明に、「台湾海峡の平和と安定の重要性」「両岸問題の平和的解決」という表現を盛り込んで台湾に言及したのが大きな話題になった。

バイデン大統領は2022年5月に来日した。次の岸田首相との首脳会談の後、共同記者会見に臨む。「台湾を守るために軍事的に関与する意思は」という質問に、「イエス」と即答し、「それがわれわれの責任」と明言した。バイデン大統領は9月にも、アメリカのテレビ番組で「中国が台湾を軍事侵攻したときは、アメリカ軍が台湾を守る」と表明した。

「一国重視」を叫ぶ習近平政権

台湾有事とは何か。一言で言えば、中国が台湾に軍事侵攻することである。

中国では、1949年の中華人民共和国の成立後、中国共産党と北京政府が一貫して「一つの中国」「台湾は中国の一部」「祖国統一」「台湾は核心的利益の核心」と唱えてきた。「台湾独立の阻止」「武力統一も排除せず」という方針を掲げ続けている。

統一の対象である台湾では、1988年1月から2000年5月まで総統と中国国民党主席を務めた李登輝氏が、中華人民共和国と台湾の「二国論」を主張し、中国は強く反発する。1995年7月から1996年3月まで、台湾海峡を含む台湾周辺海域で挑発的なミサイル実験を行い、「(第3次)台湾海峡危機」と呼ばれた軍事的危機を起こした。

その後、胡錦濤国家主席の時代の2005年3月、中国は台湾独立の動きを阻止する目的で「独立派分子」に対して非平和的手段を取ることを合法化する内容の「反分裂国家法」を施行した。一方、1997年7月、イギリスの植民地だった香港が中国に返還された。その際、中国はそれまでの制度を50年間、維持すると約束して「一国二制度」を認めた。

ところが、2013年3月に就任した習国家主席が「一国重視」を叫び、2020年6月に香港特別行政区国家安全維持法を施行する。約束の50年間の半分以下の23年で「一国二制度」の形骸化という挙に出たのだ。強引な香港支配という実例を見て、台湾の人たちが「一国二制度」や「平和的祖国統一」という中国の手口の虚構を実感したのは疑いない。

1年8カ月後の2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻した。香港支配を強行した習体制の中国も、同じように隣の台湾に軍事侵攻を行うのでは、と疑う人が世界中で急増した。

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