中国が2027年に台湾へ侵攻するという議論が急速にトーンダウンしている。台湾側が統治する離島を奪取するとの警戒論もあるが、その可能性は低そうだ。ただ、中国は着実に台湾侵攻へ準備を進めている。

アメリカのトランプ大統領は「私の誇れるレガシーはピースメーカーになることだ」と就任演説で語っていた。「ウクライナ戦争を終わらせる」と公言し、ロシアとの協議に前のめりになるほど動きを加速させている。
一方、アジアに目を向ければ台湾海峡の軍事的な緊張はトランプ政権になってからも続いている。2月10~12日には、トランプ政権発足後、初めてアメリカ海軍の駆逐艦と海洋観測船が台湾海峡を航行した。12日には、中国人民解放軍が台湾周辺で軍事演習を行ったという。台湾を巡る米中の対立は激化していくのか。
トランプ氏がピースメーカーならば、2029年1月までの任期中に台湾海峡でくすぶる火種を煽ることはないのではなかろうか。この数年注目されてきた「中国の台湾侵攻は2027年」説がまさにトランプ2.0の期間中に訪れる。だが、これまで中国が「〇〇年に軍事侵攻する」と明言したことは一度もない。
トーンダウンする「2027年台湾侵攻説」
2027年侵攻説の発信源はアメリカである。2021年3月9日に米インド太平洋軍司令官のデービッドソン大将が上院軍事委員会において「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と証言したことが発端だろう。この論拠は、中国の習近平国家主席(中国共産党総書記)が3期目満了の2027年までに歴史に残る成果を挙げ、4期目につなげる意図があるとの分析である。
だが、2018年3月の全国人民代表大会において、国家主席2期までという制限は撤廃されている。この先、4期目であろうと5期目であろうと、任期制限が存在した3選へのハードルに比べれば皆無に等しく、それならば2027年にリスクを冒してでも成果を残す必要はない。
仮に、任期継続のために成果が必要であれば、成果を作ればいい。中国共産党は、これまでも成果を作り出してきた。「ゼロコロナ政策」もだ。2022年12月に3年ほど維持してきた政策を突如終了させ、一気に感染が拡大したが、それを抑え込み、翌年3月の全人代で「決定的な大勝利」を宣言した。中国共産党のレジティマシーを作り出す力を見くびってはならない。
「2027年侵攻説」は急速な軍拡を続けて現状変更意図を隠さない中国に対して必要な日米台などの防衛強化の議論を加速させた。ただ、2027年が近づくにつれ、「2027年侵攻説」を主張してきた「専門家」のトーンはダウンしている。確かに警戒する中国の軍事力増強は目を見張るものがあったが、未だアメリカとは圧倒的な戦力差があることを認めざるを得なかったのだろう。
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