親中派とさえ言われたオーストラリアのラッド元首相ですら台湾有事を懸念し、新著の習近平研究書でウクライナ情勢を絡めながら抑止力の必要性を訴える憂鬱な警告を発している。

筆者は2025年1月末に『習近平研究:支配体制と指導者の実像』(東京大学出版会、以下『習近平』と略記)を上梓した。本書では、2012年に中国共産党総書記に就任して以降、2022年の第3期政権成立前後までの約10年間における中国の政治体制の変化とその特徴を分析した。さらに、文化大革命(1966~1976年)時期の青少年時代にさかのぼって、今日までの習近平の政治思想と政治行動における連続性と変化を考察した。
600ページ超の厚さで値段も7700円(税込み)と高い。にもかかわらず、習近平への社会的関心の高さゆえか、専門書としては思いがけず売れ行きがよく、発売から1カ月余りで重版が決定した。この場を借りて拙著を購入してくれた読者の方々にお礼の言葉を伝えたい――「お読みいただき本当にありがとうございます。いつか・どこかでお会いしたときにぜひ感想を聞かせてください」。
相次いで出された習近平研究
もっとも『習近平』の内容に関し、著者として1つ心残りがある。それは、同じく習近平という政治家を真正面から論じたケヴィン・ラッド氏の研究成果が、拙著の校正作業の終了段階になって手元に届いたことだ(Kevin Rudd, On Xi Jinping: How Xi’s Marxist Nationalism is Shaping China and the World, Oxford University Press, 2024. 以下『Xi Jinping』と略記)。
ラッド氏はオーストラリアの元首相(在職期間2007年12月~2010年6月、2013年6~9月)である。現在は駐米オーストラリア大使を務めているが、中国政治と習近平研究の分野では世界有数の研究者でもある。
本稿では拙著『習近平』と比較しながら、ラッド氏の『Xi Jinping』の分析の特徴や主な見解、および本連載のテーマである台湾問題などいくつかの論点から簡単に紹介したい。
まず、ラッド『Xi Jinping』と鈴木『習近平』の共通点と相違点を概観しておこう。
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