五十肩の痛み解消でやりがち「肩回し」に潜む危険 発症の原因には「2つの問題」が関わっていた

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五十肩になったら肩を無理に動かさず病院で診てもらう、ということなのだが、予防はできないのだろうか。

前述したように五十肩の原因は、腱板の質の劣化と胸郭の硬さ。加齢による質の劣化は避けることができないが、胸郭の柔軟性を保つことはできる。胸郭が硬くなる理由は、運動不足や姿勢の悪さ(長時間同じ姿勢をし続ける)などだ。

「若くても運動習慣がなく、座りっぱなしの生活をしている人は五十肩予備群です。実際、20代、30代で五十肩になる人もいます。若いから治りは早いけれど、同じ生活をしていたら再発します。左右交互に五十肩になったという人もいます」(菅谷医師)

肩こりがある人は五十肩予備軍

肩こりがある人も要注意。肩こりがあるということは、肩甲骨周りの動きが制限され、筋肉が硬くなっている証拠だからだ。

胸郭の柔軟性を保つためには、動かすことが大事。気がついたときにストレッチをする、同じ姿勢で作業を続けず、30分に1度程度は伸びをする、背中を丸める、伸ばす、捻るなどで背骨を動かす対策を(ストレッチのやり方は「肩のスペシャリストが推奨するストレッチ法」をご覧ください)。肋骨を広げたり閉じたりできる深呼吸も有効だ。

運動は、ウォーキングやストレッチなどの軽い運動でも十分。

姿勢改善に効果があるといわれるヨガやピラティスなども有効だが、自己流は危険だ。人によって可動域や筋力が異なるため、無理して伸ばしたり曲げたりするとケガをする危険性があるからだ。

少なくとも最初は動画などを見てやるのではなく、インストラクターやトレーナーのもとで正しいやり方を学び、安全に行うことが大切だ。

「何より大切なことは、たまにやるのではなく、習慣化することです。常によい姿勢でいなければいけないということではなく、よい姿勢を取ろうとしてもできない状態になってしまうことが問題です」(菅谷医師)

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五十肩になってしまったら、つらいのは間違いない。しかしそれは気づきを得るいい機会ととらえるべきだと菅谷医師。姿勢の悪さや体の硬さを改善するチャンスだからだ。

「そこで改善できたら、その後はずっと若々しさを保つことができます。大切なのは、自分の体の状態に敏感になること。少しでも痛いな、おかしいなと思ったら、病院で診てもらうようにしてください。バランスのよい食事や睡眠も大切です。睡眠時間が短い人は痛みがなかなかとれません。きちんとした生活が送れている人のほうが、治りは早いです」(菅谷医師)

(取材・文/石村紀子)

東京スポーツ&整形外科クリニック院長
菅谷啓之医師
1987年千葉大学医学部卒業。年間肩肘手術600件、年間外来診察1万2000名以上をこなし、多くのプロスポーツ選手やオリンピック選手などのトップアスリートから一般患者まで広く診療する。ハイレベルな理学療法と関節鏡手術を駆使して診療を行っている。学術面では、英文著書論文約100編、日本語著書論文は300編を超える。例年国内外での講演を多数行い、2017年10月には第44回日本肩関節学会を主催した。2020年9月、東京スポーツ&整形外科クリニックを開設し、2022年10月には一般社団法人日本肩関節学会の理事長に就任。
東洋経済オンライン医療取材チーム 記者・ライター

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