“なにもきっかけがない”のに起こる。
実はそれこそがミソで、発症の原因となるものは、知らず知らずのうちに体の中に作られているらしい。菅谷医師は、五十肩の原因は、加齢による肩の腱板の質の劣化に加え、運動不足や姿勢が悪いことによる胸郭(きょうかく)の硬さがあると考える。
腱板とは、肩甲骨と上腕骨をつないでいる組織。繊維状で板のような形をしており、骨にくっついていて、肩関節を安定させる。
菅谷医師によると、「腱板は、加齢によってわずかな傷がついたり、しなやかさが失われたりするなど、質の劣化が起こりやすい組織」だという。劣化するにつれて肩の可動域は狭まり、若いときのような動きがしにくくなる。
スマホの使い方も要注意
こうした腱板の劣化に加え、姿勢の悪さが五十肩のリスクを上げる。
昨今、仕事でデスクワークをしている人が多いが、そういう人のなかには背中が丸まったまま長時間、机に向かっているケースが少なくない。スマホを使っているときに猫背になっているケースも同様だ。心当たりがある人は多いだろう。
こうした姿勢を続けると、成人では約4~6kgもあるといわれる重い頭を支える背骨のS字カーブが崩れ、骨盤の角度も正しく保てなくなる。ゆがんだ骨格を支える筋肉は酷使され、過剰に緊張し、硬くなってしまう。
特に、胸郭(胸椎、肋骨、胸骨で囲われた部分)の硬さが肩に直接影響を及ぼすと、菅谷医師。胸郭の動きが悪い状態で腕を無理に動かそうとすると、腕と肩甲骨に付着している腱板が引っ張られ、さらに傷がつきやすくなる。
つまり、五十肩は肩だけの問題ではない、ということだ。
手や腕を使うとき、肩から先だけが動くと思っている人が多いが、それは実は間違いだという。実際は肩甲骨、鎖骨、肋骨、背骨、骨盤も動く。若いうちは筋肉が柔軟なので、それらが自然に連動するが、加齢や運動不足によって硬くなると、連携しづらくなる。そうした状態で腕を動かすことで肩関節に負担が集中し、炎症が起こると五十肩になる。
「当院に来られる患者さんによくよく話を聞くと、車の運転席から後部座席の物を取ろうとしたとか、運動不足を解消しようとジムで肩を動かすトレーニングをしたとか、ちょっとした行動から症状が始まっていることがほとんどです」(菅谷医師)
さらに症状を悪化させるのは、痛みを解消しようと、より一層、腕を動かそうとすること。動かすことで炎症はひどくなり、痛みが増す。クリニックには、腕が上がらなくなった、痛くて眠れないなど、症状がひどくなってから来る人が多いそうだ。
「五十肩は症状が軽いうちから治療を始めたほうが早く治ります。痛みがある期間を短くすませるためにも、痛み始めたときに一度、肩を専門に診る病院へ行っていただきたいと思います」(菅谷医師)
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