米国株の下落が長期化する可能性は高くない 一時5%へ上昇した長期金利をどう見るべきか

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経済動向に目を転じると、9月分のアメリカの雇用、小売販売などの経済指標の上振れをうけて、2023年のGDP成長率に関して筆者もやや見通しを引き上げた。ただ、筆者自身は、7月時点で「アメリカ経済の堅調な成長は想定よりも長引く」と判断を変えていたこともあり、最近の上振れについて意外感はない。一方で、インフレの再加速をもたらすほど、経済の高成長が持続する可能性は高くないと考えている。

例えば、「中小企業が借り入れを容易にできるかどうか」という調査では、3月の銀行破綻以降も総じて安定していた。だが、9月分の調査でやや悪化する兆候がみられている。これまでの長期金利上昇の、景気抑制的な効果が強まりつつあることを示すシグナルといえる。企業の信用状況の変化は、急速な経済失速というよりも、成長を徐々に抑制するという程度とみられるが、2024年にかけて、経済成長やインフレは、より安定して推移しつつある。

「リーマン前」より低い実質金利、企業財務も総じて健全

また、一時5%台へ上昇した長期金利は、リーマンショックが起きた2008年の前年にあたる2007年以来の高水準にあり、金融危機の発生などが意識されてもおかしくない。これまでの金利上昇の負の影響が累積的に蓄積され、それが突然(非線形的に)あらわれ、経済全体を大きく押し下げるシナリオについても、完全には否定できないだろう。

ただ、当時と現在を比べると、まずインフレの水準そのものが異なるので、実質金利で比べると、現在はかなり低い。また、アメリカの家計の債務比率が、コロナ禍前まで低下し続けるなど、民間企業などのバランスシートは、リーマンショックが発生した時点よりも、総じて健全と判断される。筆者は、2024年、これまでの長期金利の上昇だけで、株価下落が長く続くような景気後退にまで至る可能性は高くない、と考えている。

今後も、米国株市場は、長期金利上昇を中心としたリスクに左右されやすい展開が続くかもしれない。だが、長期金利上昇の背景には先述した足元の経済活動の底堅さがあるとみられ、これは同時に企業業績の改善をもたらす。企業利益の1年先のアナリスト予想は、4月以降の改善基調が10月も続いている。

株式市場を覆う霧(不確実性)が今後少しずつ薄れる中で、業績改善への期待が米国株市場の下支えになるのではないか。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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