もっとも、FRBは長期金利を直接的なターゲットにしていない。長期金利の水準に対して、明確な見解を示すことは難しいのが実情だろう。
パウエル議長の発言に対する反応は、金融市場でFRBによる対応への期待が高まりすぎていた、ということではないか。急ピッチの長期金利上昇を受け、債券市場の市場心理が悲観方向に傾く中で、なお混乱状況にあると言えるかもしれない。
逆イールド解消は「正常化」が進んでいる証拠
夏場以降の、アメリカの長期金利上昇にはさまざまな要因が複合的に影響しているが、大幅な「逆イールド(短期金利>長期金利)」の修正が進んだ側面が大きいと筆者は見ている。
7月に政策金利が5.50%(上限)へと引き上げられる中で、長期金利は3%台後半にあったが、このときは歴史的にも、かなりまれな「逆イールド」であると、筆者を含めて少なくない市場関係者が認識していたのではないか。
2年国債金利と10年国債金利の差で見た逆イールドは、7月時点では1%まで広がっていた。これは1982年以降の逆イールドのときと比べて2倍以上の大きな金利差であった(10月27日現在では0.2%弱の逆イールド)。経験則としても、持続しない逆イールドの状態だった、ということだろう。
景気失速への懸念が和らぎ、2024年の利下げが遠のく中で、先述した歴史的な逆イールドが縮小、解消へと向かうのは「正常化」のプロセスとも言える(逆イールド幅が縮小して、債券市場が織り込む今後1年の景気後退確率が低下した)。逆イールドの縮小ペースは急ピッチとしても、5%に接近する長期金利上昇は避けられず、そしてFRBも同様の認識を抱いているのではないか。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら