三菱電機が打破狙う「縦割り内向き」の組織風土 「事業本部」を横断運用し経営資源を最適に配分
三菱電機では、電力・産業システムやFAシステムなどの各事業本部が自立して売り上げや利益を生むことを重視する時代が約20年間続いてきた。
この体制にはメリットもあった反面、事業本部間の関係を変質させることにもなった。ほかの事業本部が製造した製品をほかの事業本部が使用するだけの関係になったのだ。
そこで2022年4月、複数の事業本部を統括する枠組みの「ビジネスエリア」制度を導入した。全社的視点や中長期的視点に立った事業戦略を構築することを目的とした制度だ。
2023年度時点でビジネスエリアは4つ設定されている。鉄道や電力、防衛関連などをまとめる「インフラ」、FAシステムや自動車機器を担当する「インダストリー・モビリティ」、ビルシステムや空調・家電をまとめる「ライフ」、ITソリューションを担当する「ビジネス・プラットフォーム」だ。
ビルシステムと空調・家電の事業を担う松本匡副社長は、「『横通しの力』や人材の流動性が弱くなっている。いろんな部署が交流することで、化学反応を起こさないといけない」と危機感を持つ。
松本副社長のいう「横通しの力」とは次のようなものだ。エレベーター事業を考えると、ライバルはオーチス・エレベータ(アメリカ)などのエレベーターメーカーとなり、エレベーターそのものの性能などで競うことになる。
だが三菱電機は、受変電設備や給湯設備、空調と幅広い事業領域を抱えている。「ビル内の環境をつくる」といった発想に基づいた提案もできるはずだ。ところがこれまではそうした発想が弱かったという。
人材の効率的な活用もできていなかった。エアコン、エレベーター、電車の車両設備のいずれにも搭載できる故障予知機能のように、技術が重複する分野は多い。それにもかかわらず、空調・家電、ビルシステム、社会システムといった事業本部ごとに開発人員などを配置していた。
具体的な製品の担当分野があると、自分の担当領域を成長させることにかかりきりになる。どうしてもほかの事業とのシナジーを考えるのは二の次になりがちだ。
ビジネスエリアオーナーの持つ大きな権限
そこで、俯瞰した立場の人材として、ビジネスエリアごとのトップである「ビジネスエリアオーナー」を設置した。加賀専務は「インダストリー・モビリティ」、松本副社長は「ライフ」で、それぞれビジネスエリアオーナーを務める。
オーナーには、同一ビジネスエリア内での事業シナジーやビジネスエリアを越えたシナジーを生み出す役割が課されている。その一方で大きな権限も持つ。それは、資本効率の視点から、どこに何を投入するかを判断できる権限だ。
加賀専務は、ビジネスエリアのオーナーとして漆間社長から求められているのは「投資家の目線で見る」ことだと話す。
三菱電機の手がける事業が顧客に価値を認められているのか、中期的に他社と連携して顧客に提案するほうが顧客に価値を認めてもらえるのではないか――。漆間社長のメッセージは、内向き志向に陥らずに外部の目線を意識せよ、ということなのだろう。
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