東日本大震災復興の議論に欠けているもの、ソフト面の防災にも目を配るべき

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東日本大震災復興の議論に欠けているもの、ソフト面の防災にも目を配るべき

吉田典史 ジャーナリスト

「災害という不測の事態に住民がいかに対処するかという、社会対応力を強化すること。そして、このような災害への対応方法という“ソフト”をどのようにして後の世代に受け継がれる文化にしていくか。それこそ議論していくべきではないか」

 防災を研究する群馬大学大学院の片田敏孝教授は現在、政府や東北の被災した自治体で議論されている東日本大震災の復興のあり方について、こう投げかける。

政府で言えば、現在、菅首相の私的諮問機関「東日本大震災復興構想会議」が6月下旬に予定されている第1次提言に向けて検討を重ねている。そこでは農業・漁業再生、観光業復興、復興連帯税、特区などいくつかのテーマが話し合われているが、その1つに今後の町づくりがある。

町づくりは、議論をしていくうえで、大きく意見の分かれるところである。今回の震災の1つの特徴は、被害の範囲が広範囲にわたる。おのずと地域により復旧・復興のあり方は異なる。

例えば、宮城県の南三陸町や岩手県の陸前高田市などでは市街地の中心部全体に大きな被害が生じた。ここでは、破壊された堤防はもちろん、港や道路、住居、商店街などを元の姿に戻すことが当然、必要である。だが、その際、町そのものが破壊されている以上、新たな町をつくり直す発想が求められる。

「東日本大震災復興構想会議」の委員は、市街地が全壊した地域に津波が届かない高さ(海面から約10メートル以上)にコンクリートの柱で持ち上げた人工地盤を造り、その上に町並みを復元する案を提案している。震災で生じたがれきを利用し、スーパー堤防を造る案も提案された。

片田氏は、今後の町づくりの議論が、構想会議でのように、これまで以上に強固な堤防を造ることや地域一帯を人工地盤にしていくこと、つまり土木・建築によるハード防災だけに焦点化されることには、懐疑的だ。

「これらの議論は、地域住民の恒久的な安全を願ってのことなのだろう。実現すればたしかに住民の福祉は一段と向上し、当面は“安全になった”と言える。ハード防災を新たに設けることは、財政的な制約などがあり、実現は簡単ではないと思うが、否定しない。だが、それだけでは、大切なことを見失っている。すなわち、住民らが自らの命を主体的に守ることだ」

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