東日本大震災復興の議論に欠けているもの、ソフト面の防災にも目を配るべき

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 これは釜石市が作ったハザードマップであり、津波が来襲したときに浸水するエリアや深さを色別に表したものだ(下図、クリックで拡大)。赤色のラインが、1896年に起きた明治三陸大津波(死者約2万2000人)のときに浸水した地域で、青い太線が今回の浸水域だ。

片田氏によると今回は、津波浸水区域の外にいた人が「ここまで津波は来ないから安全」と思い込み、逃げなかったケースが多かったという。しかし、現実には、この地域にまで津波は押し寄せ、多くの人が亡くなった。

「ハザードマップは科学的に見て、現状もっとも起こりうるだろうという想定のもとで作られている。だが、津波は想定通りには来なかった。逆に、津波浸水区域の人たちがここは危ないと感じ、逃げた。それで多くの人が助かった」

このことから、人間のヒューマンファクターが脆弱になっていることを見ることができるという。行政から“想定”を与えられ、それに命を委ね、自ら命を守るという主体性を失ってしまった。行政も国も、そして住民を含む社会全体が“想定”に縛られ過ぎていたと分析する。

片田氏は現在、釜石市の死者・行方不明者などの調査を進めているが、震災当日は雪が降り、寒かったからと自動車で避難し、そのまま波に呑まれた人がいるという。以前から津波が来襲したときに車で逃げることは難しいといわれていた。また、いったん逃げた先の避難場所が津波に対しては危険な場所と知りながらも、「暖房が効いていて暖かい」として残り、津波に襲われた人もいる。

「住民の“生き延びたい”という姿勢が、防災の基本。この意志がない中で、防災の知識を伝えてもハード防災を造っても効果を発揮しない」

このような思いから、釜石市の小中学校ではまず、「予想される津波の高さなどの想定を信じるな」「想定に縛られるな」と教えてきた。「ハザードマップも信じてはいけない」とまで言ってきた。

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