東日本大震災復興の議論に欠けているもの、ソフト面の防災にも目を配るべき
国土交通省の釜石港湾事務所によると、釜石湾口防波堤は長さ990メートルの北防波堤と670メートルの南防波堤の2つで成り立つ。これらの防波堤は水深63メートルに作られていて、「世界一深い防波堤」と言われている。
総工事費は1215億円で、市の人口が約4万3000人であることを踏まえると、住民1人当たりにつき、300万円以上の税金が防波堤のために投入されたことになる。
あるいは、岩手県宮古市(人口約6万人)は5月29日警察庁のまとめによると、415人が死亡、約360人が行方不明となっている。同市の田老地区(人口約4400人)には海抜10メートル(高さ7.7メートル)、総延長2.4キロメートルの国内最大規模の津波防潮堤が1953年に整備されていた。60年のチリ地震津波では三陸海岸の他の地域で犠牲者が出たが、田老地区では死者は出なかった。
今回は防潮堤が数百メートルにわたり破壊されたものの、片田氏は「この地域での来るべき津波の想定が甘かったとは言えない」と言う。一方で「これらの強固なハードが多くの人を救い、その一方で、たくさんの人の津波から逃げる意識を弱くしてしまい、結果として命を奪ってしまった」と指摘する。
現在以上に強固な堤防や、新たに人工地盤などを設けると、住民の地震や津波への防災意識、つまり、ヒューマンファクターによる対応力がますます低くなる可能性があると見据えているのだ。
確かに宮古市で被災した住民の中には、メディアの取材にこう答える主婦がいた。「夫は堤防があるから逃げる必要がないと言い、家に残った。私は逃げた。それで津波が家に押し寄せ、夫は行方不明になった」。市の職員も「防潮堤により津波が来ないと信じた結果、犠牲になった住民は少なくないのではないか」と産経新聞の取材に答えている(3月27日)。
“命を主体的に守る”という意識を全国に
片田氏は、今回の災害で得た教訓は、ハード防災のみですべての人命を守ることはできないということ、そしてそのために住民の社会適応力を一層高める必要があること、ととらえる。その一例として示すのが、ハザードマップである。