東日本大震災復興の議論に欠けているもの、ソフト面の防災にも目を配るべき

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 2つ目に「その状況下において最善を尽くせ」。たとえば、避難した場所が危険と察知したら、新たな避難先を探すことを伝えた。今回、児童らはその教えを忠実に守り、あらかじめ決めていた避難場所からさらに安全な所を見つけ出し、避難した。

3つ目の「率先避難者となれ」は、津波が来たらとにかく早く逃げ出すことを意味する。「遠慮をせず、自分の命を最優先に守れ」という言葉は、児童らがこれまでに学んだ倫理観とは矛盾するかもしれない。それを踏まえ、「自分の命を守ることは、みんなの命を守ることにつながる」と教えた。

これらが自らの命を主体的に守るという意識になり、社会適応力になっていく。そして社会適応力がさらに発展すると、文化になる。今後は今回被災した地域に限らず、全国の津波常襲地帯全域にこの社会適応力を普及させていくことが必要と考えている。

「目の前の、街並みが破壊されたあの光景を見て動揺し、被害に遭った人たちに手を差し伸べるには、次々とハード防災を造っていくことだけが最善のように議論されていくのは好ましくない。ハードを一層整備すると、後の世代のヒューマンファクターは一段と弱くなる。被災直後の一時的な緊張した意識のままで、今後のことを決めないほうがいい」
 
 東日本大震災のようなまれな自然の力を、堤防や人工地盤などハード的に封じ込めるには、膨大なコストがかかる。そのような財政的余力があるなら、社会適応力を高めるための予算を投下したほうが、より多くの人命を守るという点で効果があるだろう。片田氏は、ハード的な整備をするならば、高齢者など足腰が弱く、逃げることが難しい人のことを考慮し、避難専用のタワーのような施設を浸水予想地域内に配置したほうがいいと言う。

「災害対策は、もう新しいステージに入っている。震災の記憶・体験は改めて語る必要もないような“常識”として社会の中に組み込むことが重要。忘却はしてはならない」と説く。

片田氏は現在、三重県尾鷲市で津波防災の活動に取り組んでいる。尾鷲がある紀伊半島は、近い将来に起こる東海・東南海・南海地震で、津波の被害を確実に受ける地帯だ。しかし、前回の津波被害から60年が経過し、ハード的な防災はもちろん、避難対応などソフト面でも、いままでの三陸に遠く及ばない水準にとどまっている。いま津波に襲われれば甚大な被害は免れない。
 
 片田氏は、「釜石で死者を出したことは、現地の防災に取り組んできた専門家として痛恨の極み。確実に尾鷲を襲う大津波で、2度目の敗北を犯すことは許されない」と語る。

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