「会社員しながら副業」を軽く考える人が陥る困難 政府は推進モードだが、副業は休息の時間を削る

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副業を「せざるを得ない社会」が来つつある

しかし寿命は長くなり、労働する必要のある年数はどんどん増え、さらに終身雇用制度が壊れつつある現在、副業を「せざるを得ない」社会になっているのは、もうどうしようもない事実だろう。

たとえば筆者が従事しているような、書籍の執筆を中心とする文筆業。この分野では、最初から兼業せずに生活することが、かなり困難である。とくに新人のうちは、さまざまな仕事を掛け持ちしながらでないと、キャリアを積めない、というのが実情であるように感じている。

他の分野においても、「そもそも兼業からでないと、キャリアが始まらない」という現実は多々あるだろうし、その事実は今のところ、どうしようもない。

さらに大きかったのが、2018年に政府が、副業・兼業に関する方針を「原則禁止」から「原則容認」へと転換したという出来事だ。さらに2020年からのコロナ禍は、テレワークの普及とともに、副業・兼業を容認する企業の増加へ、拍車をかけた。

副業・兼業が増える流れは、おそらく止まらない。

政府は副業・兼業を推進
働き方改革で労働時間が減っても、副業・兼業で労働時間が増える……?(厚生労働省公式サイトより)

しかし私は、自分が兼業していたからこそ、「副業・兼業は、最高だ! 収入も上がるし、夢も叶えられる、みんなやろう!」なんて諸手を挙げて今の流れに賛同するのは、どうかと思ってしまう。だって、長時間労働って、大変なのだ。兼業して長時間労働をしなければキャリアや収入が得られない社会を、肯定する気にはなれない。

副業について特集した『週刊東洋経済』において、労働社会学者の常見陽平は2016年段階でこのように指摘する。

〈常見〉安倍政権の働き方改革実現会議は、議論するテーマのひとつに副業・兼業を含む柔軟な働き方を挙げています。今や副業は政府が奨励する新しい働き方なのです。ただ、働き方という名の働かせ方改革にならないかという危惧もあります。
フリーターが登場した1980年代後半、どう呼ばれていたか知っていますか。「世界を渡り歩く究極の自由人」だったのです。フリーターがそんな甘いものではないことは、今なら誰もが知っている。僕自身、かつてリクルートで『とらばーゆ』編集部にいたときに、派遣社員という働き方を後押しした面があった。今振り返れば罪深かったように感じます。新しい働き方に乗った人がバカを見る、そんな社会であってはならない。副業についてもそう思います。
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