「安易な脱炭素宣言」は、社会から批判を浴びる カーボンクレジット活用上の留意点【前編】

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その際に重要なのは、自社の事業活動や使う電気などからの直接の排出にとどまらず、製造した製品の排出なども、自らの排出削減の責任に含まれることだ。

「GHGプロトコル」という国際的な分類基準で、スコープ1と呼ばれる事業活動で直接排出する温室効果ガスの排出量に加えて、自社が使う電気や熱からのスコープ2の排出量も含めて削減するのは当然だ。さらにスコープ3と呼ばれる材料などを調達する際や従業員の通勤時、製造した製品からの排出量なども、バリューチェーン内の関連企業と協力しながら自ら削減する必要がある。

すなわち、カーボンクレジットを用いて排出削減したとみなして「カーボンニュートラル製品」として売り出すことは、欧米では厳しく科学的根拠を問われることになる。結局のところ、自らの努力で2030年に向かってはまず半減していくという姿勢が最も重要で、それをせずにクレジットによるオフセットを含めてどんな環境行動を打ち出しても、グリーンウォッシュだと批判されることになる。

しかし産業ごとにCO2削減のしやすさは異なるために、どのようにすればパリ協定に沿った脱炭素の取り組みであると社会から認めてもらえるか、頭を抱える企業も多いだろう。

国際スタンダードをしっかり学んで行動しよう

そんな時に助けになるのが、パリ協定に沿った科学的な目標を立てて行動していると認証を受けることができる国際イニシアティブである。その代表が、国連グローバルコンパクトやCDP、WRI、WWFなどの国際環境NGOが事務局を務めるSBTi(Science Based Targets Initiative:科学に沿った目標設定イニシアティブ)だ。

パリ協定が採択された2015年に始まったSBTiは、その価値を認めた環境省が日本企業のSBTi認定を支援する補助事業を始め、多くの日本の先進企業が取り組んだ。認定企業の数は年々増加して、2022年には認定を受けた企業数で日本が断トツの世界1位になったほどだ。

SBTiは、前述した国連のネットゼロ提言でも他の脱炭素の国際イニシアティブでも、企業がネットゼロを標榜するときの第1の前提条件となっている。必ずしも認定を取得しなくてもよいが、少なくともSBTiに沿った取り組みが求められる。そのSBTiでは、2030年などの短中期の目標達成では、当然ながらカーボンクレジットによるオフセットは削減量としてのカウントは認められていない。

では、カーボンクレジットをはじめとするカーボン取引はまったく意味がないのかと言えば、そうではない。パリ協定の第6条に沿って、真に削減につながる高い品質のクレジットは世の中に存在する。しかし高品質なクレジットを見極めることは容易ではない。

後編(2023年10月20日配信予定)ではカーボンクレジットをめぐる国際イニシアティブの最新動向をお伝えします。
小西 雅子 WWFジャパン 専門ディレクター

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こにし・まさこ

2006年WWFジャパン入局、専門は環境エネルギー政策。18年昭和女子大学特命教授。22年京都大学大学院特任教授。ハーバード大学修士。博士(公共政策学・法政大学)。

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