「安易な脱炭素宣言」は、社会から批判を浴びる カーボンクレジット活用上の留意点【前編】
なぜカーボンオフセットは、かくも厳しい目を向けられるのだろうか。
繰り返しになるが、そもそもカーボンクレジットとは、温室効果ガスの排出量を削減するためのプロジェクトから生まれた削減量を自ら削減した、とみなしてもらうために購入する。
すなわち、削減できた分は別の企業の排出と相殺されるので、地球全体で見た場合には削減にならない。しかも、本当に削減したのかどうかが怪しい民間クレジットが多く流通しているのが現状だ。そういったクレジットを大量に購入する一方、自らの排出削減努力を怠ったのであれば、世界の削減努力に水を差し、むしろ害を及ぼしてしまう。
パリ協定に基づき科学的な根拠で考えよう
カーボンクレジット取引はパリ協定第6条で正式に定められている「市場メカニズム」の一つであり、それを利用する場合に適正なやりとりをしなければならないことは言うまでもない。
そのためにも、まずはパリ協定の成り立ちを科学的な観点から理解する必要がある。
地球の気温上昇をパリ協定の事実上の長期目標である1.5度に抑えるためには、CO2排出量を2050年に向かって着実に削減してゼロ(=カーボンニュートラル)にしていかねばならない。
CO2は安定したガスなので、いったん大気中に排出されると海洋や森林に吸収されない限り、大気中に蓄積していく。地球の平均気温は大気中の温室効果ガスの濃度にほぼ比例して上がり、1.5度に抑えるためには、今後、環境保護の面では排出が許容される量には限りがある。これを「炭素予算」(カーボンバジェット)と呼ぶ(次ページ図3)。
世界が現在のような大量排出を続けるならば、1.5度に抑えるための炭素予算は今後約7年で使い切ってしまう。すなわち、まずは2030年までに化石燃料に依存した産業活動や暮らしをがらっと変え、温室効果ガスを半減できるかが地球の未来を決めるのだ。
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