中島:でも実践されたんですね。どんな課外授業を行っていたのですか。
妹尾:たとえば地域医療の問題です。産婦人科医も小児科医も不足している現状に対して「市は医師を招く予算を1人分しか確保できない。招くとしたら産婦人科医か小児科医か?」という形で、行政や議会、医療関係者と議論する場を設けたところ、高校生たちは懸命に考えました。
すると、こうした活動に参加した生徒は、日ごろの勉強も一層がんばるようになったんです。偏差値が高いからと医大を目指すのではなく、「地域の医療を何とかしたいから医大に進みます」というように、学ぶ意味や志が大きくなったからだと、私はみています。
中島:なるほど。そうすると、今の幸せか、将来の幸せかという二者択一ではなくなりますね。必ずしも衝突しない。社会を知り、将来を見据えることが、今の子供たちの活力や好奇心につながっていく好例ですね。
妹尾:第三者に協力してもらって、社会のリアルを体験する。その課題解決のために数学が必要なら、やれと言われなくても真剣に学ぼうとする子供たちはたくさんいます。実社会とリンクすることがわかれば、学びも主体的になり、自ずと理解も深まります。そこではじめて、将来のために勉強を頑張るという意味も腑に落ちるのだと思います。
「開かれた学校」と「安心安全」を両輪で
中島:開かれた学校というのは一つの理想ではあるのですが、他方で子供たちの安全対策も考えなければなりません。私は、いつも携帯電話かトランシーバーを持って校内を回っています。ただ、それでも地域とのつながり、人とのつながりを切らずに育んでいくことが大事です。
私がすごいと思ったのは、静岡県の川根本町のある小学校です。いつ行っても地元の人がいるそうです。校内ではおじいちゃんが草むしりをしていて、図書館では地元のお母さんと赤ちゃんが一緒に絵本を見ている。私も今度ぜひ訪れてみたいと思っているのですが、そのぐらい密接なコミュニティであれば、逆に地域の方々が抑止力になってくれます。