妹尾:開かれた学校であることと安全対策は、両輪で進めていかなければなりませんね。トラブルが起きないようにすることも大切ですが、起きたときに解決するための仕組みがもっとあったほうがよいと思います。国立附属学校には警備員さんがいますが、ほとんどの公立学校には予算措置されていません。ボタンを押せばすぐ警察がかけつけてくれるといったものもあったほうがよいと思います。
また、こうした安心安全を担保するための施策のほかに、もう一つ、子供と接する社会人には一定の研修制度が必要ではないかと思います。大人が先回りして答えを言い過ぎない、子供の発想を大事にして、一緒に考えていくスタンスを大人が学ぶ場、と言えばいいでしょうか。こうしたバランスは研修を重ねることでコツをつかめるようになると思います。
広がる学校現場の可能性
中島:確かに私自身、日本の優秀な方々が大企業や外資系企業などに勤め、ハードワークで身も心も疲弊してしまうような働き方をしていたり、日本企業では認められず海外に行ってしまったりという話を聞くと、「こうした方々が学校にいてくれたらな」と思うことがあります。
彼らの知見や体験は、子供たちにとっては非常に魅力的に映るはずです。「こんな仕事があるんだ」「こんなすごい大人がいるんだ」という発見は、大いに刺激になるでしょう。
妹尾:横浜創英中学・高等学校の工藤勇一校長は、「学校は稼働率が低い公共施設の一つ」とおっしゃっていました。確かにそうですよね。夜間はやっていないし、夏休みなども長い。でも税金で作られている公共施設です。ならば、そこに何か公民館や図書館のような機能を持たせてもいいのではないでしょうか。
もちろん予算の問題もあると思いますが、地域に根ざした生涯学習機関になってもいいですよね。人生100年なら、大人も学び直しが必要です。少子化でこの先どんどん空き教室も増えていきます。高校の先生などは専門性が高いですから、大人の知的好奇心を大いにくすぐることができるのではないでしょうか。
中島:そうなると、先生の役割や学校が果たす機能が全く変わってきますね。学校現場の可能性って、いろいろあるものですね。
妹尾:はい。あるいは子供の遊び場、居場所となるような社会教育施設としての顔を持ってもいいかもしれません。思い切って通常の授業を縮小して午前中で終えて、午後は地域の人も一緒になって遊びやスポーツをするとか……、まだ私の夢物語ですが(笑)。
中島:冒頭の話に戻りますが、価値判断の基準がGDPではなくGNH(国民総幸福量)になり、大人も子供もウェルビーイングを大事にしていけたら、社会も変わるし学校も変わるし、皆がより幸せになっていくと思います。そんなふうに変えていきたいですね。
妹尾:ヤマト運輸で宅急便を創業した小倉昌男さんは、「サービスが先、利益は後」と呼びかけて従業員に徹底しました。翌日配達などのサービスの良さが実感されると、売り上げも利益もあとでついてくるという意味です。学校教育も何が先で何が後なのか、もっと考える必要があると感じます。大学に受かることや学力テストの得点を上げることが、本当に先なのでしょうか。本来なら、中島先生が実践しているようにウェルビーイングの「SPIRE理論」が先です。輝いている教育者は、その優先順位がわかっているような気がしてなりません。
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