「子どもには新しい経験を!」親の願望に潜むワナ 発達障害の臨床医が教える「逆説的子育て論」

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枠組みを用意するときには、そこに子どもの希望をとり入れていきましょう。そのとき、「子どもの言いなりになるのか」と考えると、子どもに負けているような気分になってしまうこともあるかもしれません。それではストレスを感じるでしょう。そうではなく「大人がリーダーシップを取る」「枠組みを用意して、子どもに活動しやすい環境を提供する」と考えてください。これが自閉スペクトラムタイプの子を育てるときの心がけです。

子どもに合った枠組みを示すことを繰り返していると、子どもはリーダーシップを取ってくれる相手に信頼を寄せるようになっていきます。「この人は自分のやりたいことを理解してくれる」と感じるのです。

親の希望を優先して指示を出して、子どもを導いていくのではなく、子どもの気持ちを汲んだ提案をして、親子で合意をつくっていく。親の希望ではなく、子どもの潜在的な希望を大事にする。そのようなコミュニケーションを繰り返して、信頼関係を築いていきましょう。

例えば、「20度未満の日は長袖を着るか、上着を羽織る」という枠組みを用意する(画像:『マンガでわかる 発達障害の子どもたち』)

子育ても組織運営もリーダーシップは大事

ただ、これは自閉スペクトラムタイプの子育てだけではなく、大人の社会のリーダーシップにも言えることだと思います。

会社などでリーダーシップを取る人は、威圧的ではないですよね。そして優しいだけでもない。「こうしなさい」と命令だけをする人や、いつも「どうぞご自由に」と言っているだけの人には、リーダーシップを取ることはできません。

みんなの気持ちを汲み取りながら、提案をして合意形成をしていく人が、組織を動かして、人を成長させていきます。相手の気持ちを汲み取らないと信頼を得られないというのは、家庭でも会社でも同じなのでしょう。

指示や命令ではなく「合意」をつくる

マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある
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親が子どもに生活ルーティンやスケジュールなどを提示するときには、どうしても「言うことを聞かせる」という側面が出てきます。しかしそれを「指示」や「命令」と考えるとうまくいきません。私はよく「提案」と言っています。

親の「こうしてほしい」ではなく、子どもの「こうしたい」を汲み取って、「こうするのはどう?」と視覚的にわかりやすく提案する。そして親子で合意をつくっていく。これができれば親子の間に信頼関係が生まれ、子どもの安心感が高まり、発達の基盤ができあがっていきます。

これが自閉スペクトラムタイプの子育ての極意です。 

本田 秀夫 信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授

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ほんだ ひでお / Hideo Honda

精神科医師。医学博士。特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。1991年より横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。その後、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長などを経て、2014年より現職。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症協会理事、日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本発達障害学会評議員。2013年刊の『自閉症スペクトラム』(SBクリエイティブ)は5万部超のロングセラー。

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