しばしば、危険な状況にあってもいつも孤独で守ってもらえなかったり、自分の身に起こることに親などからさしたる関心を示してもらえなかったりといった思い出も含まれる。そんな場合でも、彼らはたいてい「自分で自分の身を守らなければいけない」と思っていた。
ある女性は、4歳のときに浜辺に1人とり残され、1時間以上も母親が探しにこなかったことを思い出した。子どものころにプールへ行き、母親が自分のことなど見ていないとわかっていたので、ずっと真ん中で泳いでいたという女性もいる。
子どもは、親に「喜んでもらおう」と進んで自立した役を演じる。しかしそこには無理があるため、往々にして、大人になっても他者に対して背伸びをしてしまうことにもなる。
早々に自立せざるをえない子どもは、自分の感情を拒むようになる可能性がある。苦しくても、精神的に未熟な親が助けてくれないことはわかっているので、そんな感情から距離を置くことを学ぶ。
子どもが悩んでいても全然気にしない親
ある日の治療で、精神的なネグレクトを受けながら育ってきたJさんが言った。「いまだにうつ状態のままですみません」と。彼女は、自分の抱えている悲しみのせいでわたしに「迷惑をかけている」と思っていた。
わたしが聞きたいのは「よくなりました」という報告だと、彼女は信じて疑わなかった。わたしに、腕のいい医師としての自信を持たせられるからと。
冷淡で批判的な母親は、Jさんが自分の気持ちを話すと、決まって露骨に苛立ったという。だからJさんは、母とうまくやっていくには、「母が望む」ように感情的な欲求を示さないのが一番だと考えるようになっていった。
Jさんは子どものころからずっと、早く独り立ちできるよう一生懸命だった。どうすれば自分は満たされるだろう。どうすれば安心できるんだろう。そんなことをよく考えていたそうだ。そんなことは「子どもが考えるようなことではない」などとは、思いもしなかった。
ネグレクトのもう1つの形は、精神的に未熟な親が表面的ななぐさめしか与えない場合だ。
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