弁護士が明かす「論理的に会話できる人」の頭の中 議論の流れを「問題提起」によってつくり出す

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議論においても、この「問題提起」、あるいは「争点整理」という考え方は重要です。問題点を発見できなければ、何について論じているのかがわからなくなり、収拾がつかなくなってしまうからです。

何が争点なのかを確認する

例を見てみましょう。「安楽死を法律上認めるべきか否か」という議論をすると仮定します。仮に「安楽死」の定義は「死期が迫っている病人の激しい肉体的な苦痛を取り除き、死期を早めて安楽に死なせること」としておきます。

正男「安楽死は認めるべきだよ。どうせ死ぬことはわかっているのに。苦しんでいるんだったら、かわいそうじゃないか」
和男「いや、しかし、命を人為的に縮めるのはやはりよくないよ」
正男「本人がいいと言えばいいんじゃないか」
和男「痛みのために思わず言ったのかもしれないよ。本心かどうかわからないじゃないか」

一見ありがちな議論です。しかし、このような議論では、問題の争点が明らかにならず、議論が整理されません。ところで、そもそも「安楽死」はなぜ問題なのでしょうか? 

ちょっと専門的になってしまいますが、安楽死は、形式的には「殺人罪」や「嘱託殺人罪」(頼まれて人を殺すこと)に当てはまります。形式的にでも該当するならば、まずは殺人罪を適用すべきだということになりますが、正男君が言うように、本人の希望だから実質的には「許してもいいんじゃないの?」という点が問題となるわけです。

ただ、先ほどの例では、このような議論の「枠組み」がなかったため、正男君と和男君がお互いに思っていることをただぶつけているだけになっていました。

以上の点を前提に先ほどの議論を整理すると、次のようになります。

正男「議論が混乱しているから、論点を明らかにしよう。確かに、安楽死は形式的には殺人罪などに当てはまるね。しかし、安楽死は本人が望んでいることだし、それを助けることが刑罰を与えるほど悪いことなのか、ということが問題だと思うよ。僕は人間の自己決定権を重視すべきだと考えるから、殺人罪などは成立しないと思う」

和男「いや、どんな場合であっても人の命を奪うのはよくないよ。人間の命の価値は絶対だ。その価値は、たとえ本人が望んでも他人がどうこうしていい問題じゃない」

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