そのかわり8世帯共同で1つの公田を管理し、そこから得られた収入を税として納入するというものでした。つまり国民に現物を支給するのではなく、生産手段を提供したのです。
これは都市から地方への人口還流を促すためでもありました。この状況も、東京一極集中、地方の過疎化が進む現代日本にも援用して考えられそうです。ベーシックインカムを導入するのではなく、耕作放棄地となっている土地に補助を出して地方移住を促すといった政策です。
さらに孟子は、このような経済政策を前提にしたうえで「個」の再興も目指します。その「個」こそ、「士」と呼ばれる人たちでした。
少しずつでも社会に「士」を増やす
もちろん孟子は王道政治によって貧困の解消と所得の安定を目指したうえで、「個」をつくる教育を重視します。人の持ち前である自然の心情である思いやり、羞恥心、謙虚さ、判断力を養うことを訴えるのです。この思想は中国近世の政治家王安石が継承し、日本でも徳川家康が武士を「士」にして日本を道義国家にしようと、国家形成の基礎に据えました。これも現代日本に置き換えることができそうです。
まずは経済格差を解消し、消費を促すような王道政治を行うこと。そして少しずつでも社会に「士」を増やすこと。本書は閉塞感でいっぱいの現代日本社会において、グローバルな資本主義経済に正面からぶつかるのではなく、東アジアの文脈を踏まえた日本固有の闘い方があるのではないかと考えさせてくれます。
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