「俺はお客だ」在宅介護で介護職にパワハラの実態 利用者が権利主張、なぜ起きてしまうのか?

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もしも前述の三つのポイントを取り違えて、「困っている」のだと誤解して、「入れ歯は弁償します、それでいいでしょうか」という対応をしたら、男性や家族の怒りを増幅させていたでしょう。せっかく築いた関係性を壊すきっかけにもなっていたところです。

新型コロナで失った家族との関係性

ところが、新型コロナ感染症の蔓延(まんえん)以降、状況が変わり、これだけでは対応ができないケースが増えてきている気がしています。

もしも前述の三つのポイントを取り違えて、「困っている」のだと誤解して、「入れ歯は弁償します、それでいいでしょうか」という対応をしたら、男性や家族の怒りを増幅させていたでしょう。せっかく築いた関係性を壊すきっかけにもなっていたところです。

長い面会禁止やイベントの中止などで、高齢者本人も家族も、介護スタッフとの関わり方を見失い、面会が解禁になったときに、どのように関係性を再構築すればいいかわからないようなのです。面会禁止以前に好ましい関係性を築けていなかった家族ではなおさらです。「面会禁止の間、手を抜いてたんじゃないの?」「認知症だからって、全部おばあちゃんのせいにしてるんじゃないの?」といった苦情が聞かれました。おそらく家族は、自分たちでもはっきりわからない不安をスタッフにぶつけてくるのでしょう。

ハラスメントが横行すると制度自体が揺らぐ

さらにいきすぎた、ゆがんだ形での申し出としては、たとえば在宅介護でヘルパーに、「ついでに私たち家族の食事もつくっておいて」と契約内容以外のことも要求する、机をたたくなどの暴力で威圧的に思うとおりにしようとする、気に食わないと「こんな仕事しかできないなんて気の毒」とさげすむような言葉を浴びせるなど、いろいろです。それこそ、パワハラ、モラハラ、カスハラに該当するような内容です。

とくに1対1のサービスが多い在宅介護の場面では深刻です。ヘルパーは逃げ場のない状況で、恐怖と、しかし仕事はきちんとしなければという責任感の板挟みになって、離職する人も出てきています。

介護現場のパワハラについて、当事者が「パワハラは我慢することではない」という意識をもって、まずは多くの人に知ってもらう、そして改善に向けて動きださなければなりません。そうしないと、介護に携わる人口は激減し、介護保険制度そのものが危うくなるのではないかと、私は危惧しています。

(構成/別所 文)

【プロフィール】
髙口光子(たかぐちみつこ) 元気がでる介護研究所代表
高知医療学院卒業。理学療法士として病院勤務ののち、特別養護老人ホームに介護職として勤務。2002年から医療法人財団百葉の会で法人事務局企画教育推進室室長、生活リハビリ推進室室長を務めるとともに、介護アドバイザーとして活動。介護老人保健施設・鶴舞乃城、星のしずくの立ち上げに参加。22年、理想の介護の追求と実現を考える「髙口光子の元気がでる介護研究所」を設立。介護アドバイザー、理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。『介護施設で死ぬということ』『認知症介護びっくり日記』『リーダーのためのケア技術論』『介護の毒(ドク)はコドク(孤独)です。』など著書多数。https://genki-kaigo.net/ (元気がでる介護研究所)
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