今回は、2つの事例を対比しながら、離れた場所に住む家族のケアへの関わり方について説明したいと思います。
親の介護も人任せ――Aさんの息子
まずは、千葉県在住のAさん(女性・80代)。私が週に一度、外来診療を担当する病院への受診をきっかけに、在宅医として関わり始めた患者さんです。がん終末期で認知症のAさんと最初にお会いしたとき、Aさんは1人で病院に来ていたのですが、記憶があいまいで、生活を含めた状況がよくつかめません。そこで、遠方に住む息子さんに連絡が取れて合意を得られたら、訪問診療を開始するという段取りを組みました。
息子さんは50代、他県で会社員として働いています。初めて息子さんと電話でお話したときは好印象だったのですが、徐々に息子さんの態度に対して、疑問を持つ場面が増えていきました。
きっかけは、訪問診療を開始した数カ月後。Aさんが自宅で転倒してケガをし、1人での生活が難しくなったときのことです。Aさんには、がんの進行による痛みもありましたが、認知症の影響から適切なタイミングで痛み止めの薬を飲むことができず、がんの痛みが強まっていました。そこで息子さんに相談したのですが、返ってきたのは「そちらで何とかしてください」というひと言。
もちろん私たち在宅ケアを支える側も、できる限りサポートします。しかし、主体はあくまで患者さん本人や家族。大事な場面での意思決定となれば、なおさらです。
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