財政赤字という病を断ち切るための名案--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
今は斬新な手法を考える好機だ。もちろん、何か一つ変えたからといって政治システムの持つ赤字体質が解消されるわけではない。だが、多くの国では、税制を効率化し、公的年金を含む社会福祉政策を現実的なものにするために総合的な改革が求められている。
スウェーデンの先進的な試み
最近各国で見られる財政審議会設立の動きは、将来に向けた明るい材料だ。デンマークやオランダ、米国、ベルギーを含む多くの国はすでに、米国の議会予算局(CBO)のような長期的な視点に立った財政監視組織を持っている。
こうした組織は極めて有益であるが、大きな制約も抱えている。たとえば、CBOは独自の経済成長予想をベースに長期の財政見通しを発表することはできるが、同時に政治的に不可能な“解決策”を受け入れざるをえない。それが同局の赤字政策批判の有効性を台なしにしてしまっている。
多くの政府は財政政策の信頼性を高めるために、中央銀行をモデルにして、独立性を持った財政審議会を設立する方向に進みつつある。そうした先駆的な試みにスウェーデン、英国、スロベニア、カナダの財政審議会がある。
スウェーデンの財政審議会の権限は広範にわたり、財政収支を予測する権限に加え、政策の目的と効果を分析する権限も与えられている。原理上、独立した財政審議会ならば財政危機に際して貴重な支援を提供できるはずだ。米国にもそうした組織が存在していたら、金融機関救済に関する費用と便益を評価できたのではないか。
ただし、こうした財政審議会がすぐに中央銀行のような重要かつ強力な機関になるとは思えない。なぜなら、金融政策については幅広い合意が存在しているのに対し、財政政策は複雑で多次元的だからだ。とはいえ、財政審議会の設立は財政健全化に向かう重要な第一歩であることは間違いない。