メタ・パワーとは、国際社会における制度やルール、枠組みを形成、改変することにより、他国を規制することができるパワーのことを指す。中国は科学技術によってハードパワーを追求するとともに、そうした国際的な影響力を背景にグローバル・ガバナンスへの関与を強めている。新興技術の開発と国際標準の策定はその限定的な一例ではあるが、中国は制度やルールを変えうるメタ・パワーをも志向していると言えよう。
テクノロジーを管理し、サイバー主権やデータ主権をも主張する中国が主導する新興技術の開発と国際標準の策定は、既存のアメリカを中心に形成されてきた自由、民主主義、基本的人権、法の支配等の普遍的価値に基づく既存の制度や国際秩序を改変しうる可能性を内包している。
世界における新興国の政治的・経済的な影響力が向上し、価値が多様化していく中で、既存の制度や国際秩序を改変しようとする中国のメタ・パワーが支持を獲得する余地が広がりつつある。
メタ・パワーの拡大はハードパワーの拡大につながる
中国によるメタ・パワー強化は、既存の欧米による国際秩序と摩擦を起こしうるだけでなく、ハードパワーの形成・行使のルールそのものを中国自身にとって好ましい形で規定することにもつながる。つまり、中国のメタ・パワー強化は、結果的にハードパワーの拡大を加速させることにもなる。
もっとも、それは中国にとっても簡単なことではない。ハードパワーでアメリカに迫りつつある中国がメタ・パワーを獲得するためには、新たな科学技術を背景に、これまでにないオルタナティブなシステムや戦略を構想・提示する「想像力」が求められることとなるだろう。
一方、既存の国際秩序を支えてきたアメリカ、欧州、そして日本は、グローバル・ガバナンスを強化するために、情報や技術の獲得競争を通じて拡大する中国のハードパワーのみならず、メタ・パワー競争への対応を一体的に講じていかなければならない。
(土屋貴裕/京都先端科学大学准教授)
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