東大教授「眠気の正体はカルシウム」衝撃の真相 マウスの呼吸パターンから分析を進めた結果…

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この技術は遺伝子改変したマウスの睡眠に起こる変化を確かめるうえで非常に有効で、それほど操作に慣れていない人でも睡眠を解析できるようになり、研究が進んだのです。私たちが開発して磨いてきた脳や全身を透明化するCUBIC(透明にした脳や全身の顕微鏡による観察と、画像解析を組み合わせた全臓器・全身全細胞を解析するための技術)という技術も役立ちました。

そうして見えてきたのは、眠気の正体はカルシウムだということでした。

眠気の正体はカルシウムだった!

体内の細胞の隙間にカルシウムが存在します。神経細胞が興奮すると細胞の外から細胞内にカルシウムが入ります。カルシウムが入るとCaMKIIというリン酸化酵素が働いてそれを数えます。これが眠気の正体ではないかと予測し、21種類の異なる遺伝子改変を施したマウスで検証したところ、やはりカルシウムイオンによって調整されるメカニズムが睡眠時間を制御していました。眠りに入るには神経細胞にカルシウムイオンが流入する必要があり、覚醒するにはカルシウムイオンが神経細胞から流出する必要があったのです。

従来はカルシウムが神経を興奮させると思われていましたが、実際にはカルシウムがブレーキとなり、神経の興奮がさめて眠気のもととなっていました。昼に何かを学んだりすることで興奮した神経細胞がカルシウムを取り込むことで夜によく眠れるのです。

人の睡眠の研究を始めたのは、特定健康診査に睡眠測定を入れたいと思ったからです。睡眠を定期的に測ることで脳の状態を把握し、病気の予兆を早めにとらえる仕組みを作りたかったのです。

睡眠状況が悪くなった人には薬や医療機器がありますが、未病の時点で悪化を防ぐという面が睡眠医療では弱い。そこをなんとかしたいと思って技術を磨き2020年8月に睡眠健診の社会実装を目指すベンチャーを立ち上げ、同年10月には睡眠健診運動を始めました。日本の国民皆保険制度の特徴を活かして睡眠健診を広げる運動です。検便や検尿のように、事前に装置を渡して健診日に提出する形で、1週間ほど装置を腕につけて過ごすだけで脳の状態を確認できます。

次ページ睡眠の重要さへの理解が深まり、睡眠の質の確保は責務になる
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