定年後に陥りやすい「負の思考」を持つ人の共通項 「こうあるべき」を捨ててもっと自由に生きよう

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たとえば、定年退職によって長年続けた仕事を辞めて、家にいる時間が長くなると、「オレは、もう社会から必要とされていない人間なんだ」と、自分を過小評価してしまう人がいます。

これは、「人間は働いて、人の役に立ってこそ、価値がある」という、「人とはこうあるべき」との決めつけによって起こる不安な感情です。

では、「人は働くのが当たり前」とは、誰が決めたのでしょうか。自分で「そうあるべき」と決めつけているだけ、それを常識と思い込んでいるだけのことなのです。

「かくあるべし思考」を捨てる

65歳を過ぎると、体力も徐々に落ち、若い頃と同じようには動けなくなります。そのとき、自分を「ふがいない」と思ってしまうのは、「動けるのが当たり前」と思い込んでいるからです。

このように、「自分はこうあるべき」という理想があり、その理想に囚とらわれていると、体力が落ちていく自分を情けなく感じてしまいます。
この「ふがいない」という感情は、「老いたら衰えるのが当たり前」ということを上手に受け入れられていないことの表れでもあります。

「かくあるべし思考」のように、人間の判断をゆがめてしまう思考パターンを「不適応思考」と呼びます。この不適応思考を持つ人は、精神的な落ち込みが強くなり、老人性うつを発症しやすくなります。

では、人はどうして不適応思考を抱いてしまうのでしょうか。それは、自分への要求水準が高い、いわば、頑張り屋さんだからです。自分への要求が高いぶん、「頑張らなければいけない」と自分を追い込み、それができなかった場合、自分自身を情けないと感じます。

このように「かくあるべし思考」は、自分の考えで自分を縛るゆえに、思考が悲観的になっていくのです。

◎「ポジティブ思考」よりも「別の可能性」を考えてみる

悲観的になっている患者さんのお話を聞くとき、私は「そういう考え方もありますが、そうとも限りませんよね」と、別の視点を持つようにアプローチしていきます。この「別の視点を持つ」というアプローチは、私が精神科の治療で行っている「認知療法」の基本的な考えの1つです。

認知療法とは、本人が自分の思考の偏りを「認知」することによって、うつ病などの症状の改善を目指す療法です。この療法を行うことで、ネガティブ思考やマイナス思考など、否定的な考え方のクセを変えていくことができます。

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たとえば、定年退職後に、「自分は必要とされていない存在だ」とネガティブに捉えると、思考が悪い方向に進み、不安が強くなっていきます。

ただ、ネガティブ思考に陥っているとき、「もっとポジティブに考えましょう」といわれても、そううまく切り替えられません。そこで大切になるのが、「別の可能性を考える」ことです。

すべての物事には二面性があります。一見すると悪い出来事も、別の見方をするとよいことが必ずあります。たとえば、「仕事が生きがいだったのに、定年を迎えてしまった」と思ったとき、「これからは好き勝手に生きていける」というよい面を見つけられるかもしれません。

このように、「悪い面」の裏に隠れた「よい面」を見つけられると、心がフッと軽くなります。ぜひ、取り入れてみてください。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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