ではなぜ、定年が老人性うつのきっかけになりやすいのでしょうか。それは、長年、仕事で積み上げてきたものを1日で喪失するからです。
古典的な精神分析の考え方では、うつ病の最大の原因は、「対象喪失」とされています。愛する対象を失ったときに、人間は心理的に不安定になり、うつ状態に陥ります。その状態が2週間以上続いたとき、「うつ病」と診断されます。
定年後にうつになる人が多いのは、会社を離れることが対象喪失になるからです。熱い想いを持って長年勤めてきた会社を去ることになるため、居場所も人間関係も一気に失い、それが心に大きなダメージを与えてしまいます。
心の支えが一気になくなる
一方、現代的な精神分析では、「自己愛喪失」が心の健康に最も悪影響を及ぼす、としています。自己愛喪失とは、自己愛が満たされないこと、あるいは自己愛を満たしてくれる対象を失うことです。
具体的には、自分の働きを認めてくれる人、自分を尊敬してくれる人、自分の心の支えになる人、自分が同じ仲間と思える人などを失うことが、自己愛喪失になります。定年退職を迎えると、これらを一気に失うことになります。
このように、定年退職は、対象喪失と自己愛喪失がダブルで押し寄せてくる、心の健康において最悪の状況を生み出しやすいのです。
◎65歳を過ぎたら「自分がやりたいことをやる」
ところが、定年退職という最悪な制度も、自分の考え方を変えると、最高の制度に見えてきます。
よく考えてみてください。定年退職は、それまでの束縛から解放されて、「自由を手に入れる」という最良の機会とも考えられます。
65歳は、老いてきてはいるものの、体力・気力は十分にあり、試せることはたくさんあります。むしろ、時間的な余裕が増えるぶん、できることも増えていくでしょう。この先、20年も30年も生きることを考えれば、その数は無限大です。
そこで、65歳以降のご自身に対して、1つルールを設けてはいかがでしょうか。「65歳を過ぎたら、自分がやりたいことをやる」というルールです。
現役時代は、社会のルールに従って生きてきました。しかし、現役を引退したのちは、あなたを縛るものはもう何もなく、1人の人間としての自由を謳歌できます。
年齢を重ねてまで、嫌なことをする必要はありません。取り返しがつかなくなるような大バクチ以外のことなら、なんでも気軽に試してみましょう。そうすることで、新たな刺激を前頭葉に与えられます。
セロトニンの分泌が減っていく65歳以降は、なんでもやりたいことをするようにしないと、人生を楽しむ意欲など湧いてこないのです。
◎「自分はこうあるべき」の理想が自身を追い込む
心の老い支度では、物事の受け止め方を変えていくことが大切です。
前頭葉が老化すると、物事の「決めつけ」が激しくなります。この物事を決めつける思考は、「かくあるべし思考」となって現れます。物事を「こうあるべし」と決めつけ、それに反することが許せず、不安を高めていく思考のあり方です。
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