スマホ「アプリ自由競争」を巡る世界の熱い議論 通信事業者への優遇を水面下で進める日本政府

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尾花氏は、デジタル市場競争会議と、内閣府のこども家庭庁での連携が取られていなかった点も指摘し、「消費者が求めているかどうかの根拠も薄いサイドローディングによって、子どもがスマホを安全に使う仕組みが損なわれてしまう」と指摘している。

自由競争に対する安全の責任を、国が負うべき?

また、兵庫県立大学環境人間学部教授でソーシャルメディア研究会 代表理事の竹内和雄氏は、デジタルと子どもの関係について、考え方に「変化が必要」だと指摘する。

「大人に『インターネットはいつから使っている?』と尋ねると、大抵中学生、高校生と答えます。しかし2歳までにインターネットに触れる日本人が62.6%に上るのが事実です。大人たちが、自分たちの子ども時代に経験していないことが、現在の子どもに起きうることを、認識する必要があります。

アプリの競争促進は、国内事業者を潤わせる目的があるでしょうが、子どものプライバシーを脅かしたり、情報の真偽やコミュニケーションのトラブルをもたらす危険なアプリについて、自由にダウンロードできる環境を家庭や学校が必要としているか、再考が必要です」(竹内氏)

また、竹内氏は、アプリが無審査で流通することによって、これまで携帯電話事業者やグーグル、アップルといったプラットフォーム事業者が作り上げてきたフィルタリングやセキュリティ、プライバシーといった仕組みが崩れる点にも懸念を示し、「誰も審査せずに流通させる環境を作り出そうとするなら、年齢の認証やアプリの審査を、国が責任を持って取り組むべきではないか」と、サイドローディング実現には、国が踏み込んで安全性を作り出すかどうかも、議論すべきだとしている。

筆者としては、EUとプラットフォーム事業者の間で何が起きるのか、一度観察することも選択肢ではないか、と考える。実際、Androidでは、サードパーティーのアプリストアが実現可能であるにもかかわらず、ユーザーの9割がGoogle Playを利用する実情がある。

サイドローディングの義務づけになるEUで起きるトラブルや問題を見極めてからでも、遅くはないのではないか。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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