国が生活に必要最低限なものとして考えている保険ですから、社会保険の守備範囲はあくまでシビルミニマムです。一方、民間保険は国の社会保険だけでは十分に保障されない個別のリスク、個人的なリスクに対応するものです。このように社会保険を補完するのが民間保険の基本的な役割になります。
社会保障政策の根幹は、国の社会保険と民間の保険制度をどのようにバランスさせていくかにあります。いかにバランスをとるかは、どこの国においても政治的に大変センシティブな問題です。その時代の国の社会経済状況に応じて、適切に舵取りしていくことが求められます。このことは、社会保険の状況に応じて、その補完物である民間保険の役回りが絶えず変わる構造にあることを意味しています。
この社会保険と民間保険のバランスを、世界の先進諸国で比較してみると、興味深い事実が浮かび上がってきます。
保険に入らなさ過ぎの米国
米国では伝統的に、国の役割を小さくして、できるだけ多くを民間に委ねようとします。それが効率的である、と信じている資本主義国家です。したがって、国の役割が小さい分だけ民間保険の役割は大きくなります。米国が世界第1の保険大国である理由のひとつはここにあります(生命保険料ベース。第2位は日本。以下、英、仏と続きます)。
米国には日本のような公的な健康保険制度がありません(高齢者と低所得者用の健康保険制度はあります)。民間の医療保険に入らないと、一般の人は、病気やケガの治療を受けることが難しくなります。それでも医療保険に入らない(あるいは、入れない)無保険者の存在が、大きな社会問題でした。ようやくオバマ大統領が医療保険への加入を義務付ける「オバマケア」をスタートさせましたが、いまだに米国内では賛否両論が渦巻いています。
米国では死亡保険もかなり利用されています。ただ、その実態を見ると日本と違い、住宅ローンを利用する場合、相続対策として死亡保険を活用する場合など、かなり限定的です。アメリカは福祉水準が決して高くない割に、民間保険が必ずしも十分に利用されていない特異な国と言えましょう。
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