帯状疱疹が問題なのは「後遺症痛」だけじゃない訳 心臓病や脳卒中のリスクも、ワクチンで予防を

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前述したようにシングリックスにはアジュバントが含まれている。アジュバントは免疫を活性化させる。つまり、無理に強い炎症を引き起こすため、接種部の腫れや疼痛はゾスタバックスより強い。だが、重大な副作用は少なかった。GSKが実施した市販後調査では、約320万回の接種で入院を必要するような重篤な有害事象は4件だけだった。

このような研究報告を受けて、シングリックスの使用は急増した。発売からわずか5カ月で、アメリカでの帯状疱疹ワクチン市場の90%以上のシェアを確保し、発売初年度の売り上げは10億ドルを超えた。

わが国ではゾスタバックスは未承認で、シングリックスは2018年3月に承認されている。

残念なのは、わが国ではシングリックスは予防接種法上の法定接種になっていない。このため、原則として費用は自己負担だ。私が外来診療しているナビタスクリニック新宿の場合、ワクチン接種の費用は2万5000円だ。2回接種が必要だからあわせると5万円となり、負担は大きい。

ただその一方で、接種費用を負担する自治体も出始めている。新宿区の場合、1回あたり1万円、最大2回の接種費用が助成される。接種をご検討の方は、ぜひ住んでいる地域の自治体の情報をご確認いただきたい。

ワクチンで認知症リスクが低下?

確かに、帯状疱疹ワクチンの接種費用は高額だ。それでも、私は接種をお勧めしたい。なぜなら帯状疱疹ワクチンは、発症の予防以外にもさまざまな効能がありそうだからだ。

その可能性の1つが認知症予防だ。

今年6月、イギリスの『ネイチャー』誌は、「帯状疱疹ワクチンは認知症のリスクを減らすか。大規模研究がその関連を示唆している」というニュース記事を掲載した。この記事で紹介されたのは、イギリス・ウェールズ地方の約30万人の健康記録を分析したところ、ワクチン接種者では、認知症のリスクが約20%低下していたという疫学研究だ。

認知症の1つ、アルツハイマー病の発症には、アミロイドβの蓄積以外に、ヘルペスウイルス属の持続感染が関与することが示唆されている。その1つが帯状疱疹を引き起こす水痘ウイルスだ。もちろん、この可能性はまだ十分に実証されてはおらず、今後の検証が必要だ。ただ、それでも認知症を予防できる可能性というのは魅力的だ。

帯状疱疹ワクチン接種は自分だけでなく、周囲の人にも有益だ。それは、水ぼうそうにかかったときほどではないが、帯状疱疹も周囲に水痘ウイルスを拡散するからだ。帯状疱疹を予防することは、病気に対する抵抗力が弱い子どもや免疫力の落ちた病人、さらに妊婦を水痘感染から守ることになる。

これが帯状疱疹ワクチンの現状だ。接種されることをお勧めしたい。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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