帯状疱疹が問題なのは「後遺症痛」だけじゃない訳 心臓病や脳卒中のリスクも、ワクチンで予防を

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ただ、疫学的に帯状疱疹の発症リスクは加齢とともに高まる。特に50歳を超えるとリスクは急上昇する。

外山望医師(宮崎県皮膚科医会)らが、宮崎県内で1997年から2006年に発症した帯状疱疹患者を調査したところ、50代の発症率は1年で1000人あたり約5.4人、60代で約7.0人、70代で約8.0人と上昇していた。50代から80代までに、およそ2割の人が発症する。

この研究によると、帯状疱疹の患者数は増加傾向を示しており、1997年から2006年にかけて発症率は約2割高まったという。高齢化が進むわが国で帯状疱疹は重大な疾患だ。

この帯状疱疹に対し、世界では予防法が研究されてきた。その中核は予防接種だ。試みられたのは、子どもの頃に接種した水痘ワクチンを再接種することだ。

ワクチン接種で痛みが7割減少

1999年にはアメリカ・メルク社が主導し、大規模な臨床研究が始まった。60歳以上の約3万9000人を対象とした水痘ワクチンとプラセボ(偽薬)を接種する臨床試験を実施したところ、ワクチン接種群では帯状疱疹が61%、帯状疱疹後疼痛が67%減少していた。

注目したいのは、このときに使った水痘ワクチンの力価(強さ)だ。平均して2万4600PFU(プラーク・フォーミング・ユニット:ワクチンの力価の単位)で、アメリカでの乳幼児用の水痘ワクチンの約14倍にものぼる。

水痘ウイルスは高齢者では持続感染している。それは宿主(ヒト)の免疫を逃れるメカニズムが存在しているからだ。したがって、初感染を予防するための乳幼児ワクチンを高齢者に流用しても、その効果は十分ではない。メルクは力価を強めることで、この問題を克服した。

余談だが、わが国の小児用の水痘ワクチンの力価は3万PFU以上とされている。理論的にはこのワクチンをそのまま使える。

話を戻すが、メルクは、このワクチンをゾスタバックスと命名し、2006年にアメリカ、EU、カナダ、オーストラリアで使用認可を得た。

さらに対象を拡大したメルクは、2010年10月に50代の成人を対象とした臨床試験を実施し、その結果を発表した。この試験では、帯状疱疹の発症率が70%低下した。これ受けて2011年3月には50~59歳への使用もアメリカで承認された。これにより、帯状疱疹の世界的な予防の基準は50歳以上となった。ゾスタバックスの接種は急増し、2011年の売り上げは約3億3200万ドルに達した。

ゾスタバックスは大型医薬品に成長したが、ほどなくライバルが現れる。イギリスのグラクソ・スミスクライン社(GSK)が開発したシングリックスだ。

GSKはワクチンの免疫効果を高めるため、アメリカのアジェナス社が開発した「QS-21スティミュロン」という化合物を添加した。このような添加物はアジュバントと呼ばれ、ワクチンの効果を高めるために、しばしば用いられる。近年のワクチン開発競争は、アジュバントの開発にかかっているといっても過言ではない。

シングリックスは2017年10月にアメリカで承認された。50歳以上の成人約1万6000人が参加した臨床試験で、帯状疱疹の発症頻度を97%低下させた。ワクチンの効果が期待しにくい高齢者にも有効だった。70歳以上の高齢者に限定して解析しても、90%もリスクを減らしていた。

2018年1月、アメリカ疾病対策センター(CDC)は免疫が正常な50歳以上への2回接種を推奨。ゾスタバックスの接種歴がある人にも、今後はシングリックスを接種するよう勧めた。

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