これでは求人詐欺といわれても仕方ない。一方で仕事がなければ、利用者をクビにするしかないという事業者側の言い分にも一理あるのではないか。するとコウジさんはこう反論した。「解雇や会社都合の退職なら納得できたと思います。でも、強引な退職勧奨や懲戒解雇にするという脅しまでされて、これのどこが自己都合退職なんですか」。
コウジさんは、事業所が自己都合退職にこだわったのは、会社都合退職や解雇を行うと、高齢者や障害者を継続雇用することで得られる助成金の支給が制限されるからではないかと指摘する。実際、後になって開示請求した書類を調べたところ、この事業所が該当する助成金を3年間で600万円近く得ていたことがわかったという。
個人加入できるユニオンに入った
このころ、ほかの利用者たちの間でも「イラスト制作の仕事で18禁の作品を描かされた」「『明日から野菜の袋詰めの仕事に行くように』と言われた」「施設外での仕事に職員が同行していない」といった不適切な処遇を訴える声が上がっていた。
このため同僚5、6人とともに個人加入できるユニオンに入った。ところがその直後、コウジさんは職員2人に飲食店に呼び出され、ユニオンを脱会するよう説得されたという。職員いわく「労働組合なんて意味わからへんところ入って大丈夫なん?」「あなたの体調を思って言うてんねん」「このままやったら仕事任されへんから、抜けてくれへんか」。
労働者が労働組合から脱退することを雇用条件とすることを「黄犬契約」という。違法行為であると同時に使用者として極めて浅ましい行為の1つである。コウジさんが「不当労働行為ですよ」と指摘すると、職員らは「不当労働行為って何?」ととぼけたという。
コウジさんたちはユニオンに相談するなかで、事業所の問題を明らかにするために情報公開制度という方法があることを知る。その中で偶然見つけたのが、冒頭で紹介した身に覚えのないことばかりが記載された「サービス提供実績記録票」だった。
一方でコウジさんには事業所の実態と同じくらい許せないことがある。行政側の対応だ。
自己都合退職を強いられそうになって以来、コウジさんたちは所管の自治体や労働基準監督署、労働局などあらゆる行政機関に足を運び、一連の不当労働行為などについて何十回も訴えた。しかし、問題の「サービス提供実績記録票」を突きつけるまで、どの組織もいっさい動こうとはしてくれなかったという。
担当者から「話は聞くが、その後どうするかは教えられない」「殴られた動画でもあるのか?」と突き放されるのはまだまし。「あなた、成年後見人付けてます?」と聞かれたこともあったという。成年後見人とは認知症や知的障害によって判断能力が不十分な人に代わって法律行為を行う人のことだ。あなたには判断能力がないと言わんばかりの暴言である。
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