大泉洋が感銘受けた、91歳山田洋次監督のプロ魂 映画『こんにちは、母さん』で演じて感じたこと

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「監督の『諦めの悪さ』や、つねに『もっと良くしたい』という強い思い。リテイク(撮り直し)が必要な場面でも、僕らに対して真摯に謝る姿など、そのプロフェッショナリズムを肌で感じました。

それから驚いたのは、山田監督の撮影が9時から17時までという計画的なスケジュールだったこと。時間を超えると、監督はスタッフやキャストに『みんなにも生活があるのに申し訳ない』と謝り、夕食を提供してくれるといった配慮をしてくれました。

こうした考え方は海外では一般的かもしれませんが、日本の撮影現場では長時間の作業が当たり前で、特に連続ドラマの撮影では役者の私生活が2、3カ月ほぼなくなることもあります。そんな中、山田監督の考え方はとても素晴らしいと思います。もちろんご自身の体調を考慮していることもあると思いますが、そうしたことも踏まえながらも諦めない姿勢に本物のプロ魂を感じましたね」

現代を生きるサラリーマンたちの葛藤と決断

『こんにちは、母さん』の台本を手にした瞬間、大泉の心には多くの感情が湧き上がった。令和の時代、絶えず変わる社会の中で、山田監督が伝えたかったメッセージは、普遍的な親子の愛の深さと絆だった。

大泉洋演じる昭夫と母・福江を演じる吉永小百合、娘・舞を演じる永野芽郁  ©2023『こんにちは、母さん』製作委員会

「台本に共感できる場面が多数描かれていて。特に、僕が演じる"昭夫"のキャラクターは多面的で、彼の生き様に共感する観客も多いように感じます。日々、会社で神経をすり減らす生活、そして家では妻から離婚を切り出され、大学生になった娘も冷たい。それらの日常、感情が非常にリアルに描かれている。

僕はサラリーマンではありませんが、職場でのさまざまなストレスや困難を経験しています。劇中の昭夫の姿は、多くの人々に共感を呼び起こすと確信しています」

大泉洋演じる昭夫と大学時代からの友人・木部を宮藤官九郎が演じる ©2023『こんにちは、母さん』製作委員会

映画の中で昭夫は、大きな決断をする。自らの同僚を守るために会社を辞めるという選択をするのだ。それは、現代の働き方の変化を象徴しているともいえる。令和の今、長く一つの会社に勤務するスタイルは当たり前ではなくなりつつある。

「昔ならば悲劇とも取られたであろう彼の選択ですが、自分が生き生きと働いていく環境を見つけるのかなとも思ったり。令和という時代の中では新しい扉を開く可能性があるのかもしれません」

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