このように、「自然利子率が低下したまま」との見解に固執することなく、FRBは均衡政策金利をより柔軟に判断するとみられる。そして、現状2.5%の均衡政策金利が上昇すれば、FRBが利下げに転じるタイミングも先送りされる可能性が高まるだろう。
筆者は、均衡政策金利が3%程度に上昇している可能性について、利下げが検討される2024年に入ってからFRB内部で本格化するとみていた。
だが、その前段階の議論が、ジャクソンホール会議において前倒しで始まりつつあるようだ。均衡政策金利に対する柔軟な考え方がFRBから示されたことが、最近の長期金利上昇をもたらした第2の要因とみられる。
会議は「無風」でも、4%超の長期金利は継続へ
それでは間もなく始まるジャクソンホール会議をうけて、市場はどう動くか。これまで説明したとおりに、会合の前段階で自然利子率についてのFRBの見解が幅広く示された。
25日のパウエル議長の講演では、自然利子率が上昇している可能性について、議場自身が踏み込んだ見解を示す可能性はやや低くなった。この意味では、自然利子率をめぐる思惑はすでにいったんピークを越えたとみられ、金融市場の新たな材料にはならないのではないか。
また、最近のアメリカ経済は底堅い成長が続いていることを示す経済指標が多くなっている。これをうけて「パウエル議長が引き締め姿勢を強める」との思惑が浮上している。
ただ、少なくとも過去2カ月はインフレ指標の落ち着きが示されている中で、経済堅調とインフレの落ち着きについてバランスをとって言及する可能性が高い。
一方で、年末までの時間軸で考えると、アメリカ経済が底堅い成長が続く中で「均衡政策金利は上昇している」との認識を強める方向で、今後FOMCにおける議論が行われそうだ。このため、4%超の長期金利は当面定着する、と筆者は考えている。
長期金利が高止まることは、冒頭に述べたように短期的には株高にブレーキになる。ただ、経済とインフレが程よく減速する中で生じる金利上昇が、経済活動を失速させる可能性は高くない。経済のソフトランディングを一足早く想定した株式市場に対して、「FRBの政策ミス」にベットしていた債券市場の認識修正の過程で起きている長期金利上昇なのだから、過度な懸念は不要だと筆者は考えている。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら