というのも、アメリカ経済は名目ベースで年5%を超える経済成長が続いており、これに対して3%台の長期金利はむしろ低すぎると言える。経済が減速しつつも失速に至らず、程よい程度に経済成長が続いているので、4%台の長期金利は正当化できる。また、インフレの再加速を依然警戒しているFRBにとっても、最近の長期金利の上昇は望ましいだろう。筆者は4%台半ばまでの長期金利上昇には、FRBは警戒を示さないとみている。
「インフレが落ち着き」かつ「失速に至らない緩やかな減速」という理想的な経済状況が、2022年からの金融引き締めを経て実現しつつある。FRBの経済予測においても、景気後退がメインシナリオではないことが、7月25~26日に開かれたFOMC(連邦公開市場委員会)会合時のジェローム・パウエル議長の発言で判明している。
このFRBの判断に遅れる格好で、債券市場でも、ほぼコンセンサスだった「アメリカ景気の後退は不可避」の見方が変わったとみられる。実際に、複数の大手金融機関のエコノミストが、8月に入ってから「景気後退には至らない」と予想を変更した。なお、筆者は、7月前半時点で「アメリカ経済は景気後退が回避され、ソフトランディングに至る」と予想を変更している。
とはいえ、筆者の感触では、依然として景気後退をメインシナリオにしているエコノミストもまだ半分程度残っているもようだ。景気後退を予想するエコノミストが少数派になるまで、同国の長期金利上昇が続くのかもしれない。
FRBの自然利子率に対する考え方は柔軟になった
もう1つの金利上昇要因は、自然利子率に関する、FRBの考え方が柔軟になっていることである。自然利子率とは、完全雇用経済下で均衡する、景気に中立的な実質金利のことだ。
5月にはNY連銀のジョン・ウィリアムズ総裁が、「コロナ禍後も自然利子率が上がっていない」と主張、自然利子率がゼロまで一段と低下する可能性を示唆する分析を示した。この分析が、FRBが想定している均衡政策金利(ロンガーラン金利)が2.5%で揺るがない材料とみなされた。均衡政策金利の「アンカー(投錨)」が強いままなら、長期金利上昇を抑制する。
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