「さみしさ」が私たちを苦しめる脳科学的根拠 人間は社会的集団を作ることで生き延びてきた

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そう考えると、さみしさは危険や危機を予測する防御反応であると同時に、「生き延びること」を強く欲する力の淵源でもあるといえそうです。

わたしたちが「現代社会」と呼ぶいまの世界は、人の進化の過程においては、ほんの一瞬の出来事、それこそまばたきするような期間に過ぎません。人類は、これまで多くの時間で集団をつくり、狩りをして過ごしてきました。初期の人類は、単独でいるよりも集団でいるほうが生存の可能性が極めて高く、共同体や組織などの社会的集団をつくることで生き延びてきたのです。

哺乳類では多くの種が、餌を得るために、また個体としての脆弱性をカバーするために、群れをつくって生きてきました。その哺乳類のなかでも、とりわけ足が遅く、力も体も弱いのが人類です。そんなわたしたち人類が、ここまで生き延びることができたのは、より濃密で、極めて高度な社会性を持つ集団をつくることに長けた生物だったからといえます。

そして、その社会的結び付きをより強く維持するために、集団でいるときは心地よさや安心感を抱き、孤立すると居心地が悪くなり不安やさみしさを感じるようになったと見ることができます。

そうしたシステムが、わたしたちの遺伝子に組み込まれていると考えるほうが自然なのです。

さみしさが、コントロールすることが難しい情動である理由も、これで説明できそうです。人が種を残し生き延びるためには、食欲や性欲と同じように、さみしさも意志の力などで簡単にコントロールできないように仕組まれた「本能」であると考えることができるのです。

さみしさの本質を知る意味

さみしさは、人にもともと備わっている本能です。だからといって、「どうしようもないものだから放っておけばいい」といいたいわけではありません。

そのさみしさが深い苦しみを伴うものなら、その苦しみを少しでも和らげるために適切に対処する必要があります。

さみしさは本能であると知ったとしても、さみしさから解放されることはないでしょう。しかし、さみしさの仕組みや本質を知ることは、決して無意味なことではありません。さみしさを脳科学や心理学の視点から、人類の進化、社会の発展との関係で科学的に考察すると、さみしさを感じる自分は心の弱い人間でもなければ、劣っている人間でもないということに気づくはずです。

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