ispaceが宇宙事業挑戦で民間資金にこだわる訳 しがらみのなさはアドバンテージ、国へ要望も

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――日本にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)がありますが、これまではJAXA法の縛りで民間企業への出資が難しい状況にあります。ただ、政府がその状況を変えるために、JAXA法を近く改正する検討をしていることが一部で報じられています。

まず、JAXA法での出資に関して、われわれには直接はそんなに関係ないかなという風に思っている。一方で、おそらくその流れの1つとしてJAXA基金などができ、それを使ってサービス調達とかができるようになっていくのではないかと思う。そこがわれわれにとっては本質的に非常に重要なところだ。

将来的には民間の資本で回るような世界をつくっていくべきと話したが、足元ではまだ政府の需要が大きく、そこを(宇宙関連の企業が成長していくための)トリガーにしていく必要がある。

その時に重要なのは、政府の資金の出し方を変えること。今までの政府資金は、宇宙産業の技術開発に対して補助金のような形で、研究開発予算として出している。それを、今後は政府調達、サービス調達として、政府が輸送などをサービスとして買っていくという考え方にシフトすることが必要だと思っている。

はかまだ・たけし/1979年生まれ。名古屋大学工学部卒、米ジョージア工科大大学院で航空宇宙修士号取得。外資系コンサルで経営を学んだ後、2010年より民間月面探査レースに参加する日本チーム「HAKUTO」を率いた。2013年に運営母体を組織変更してispaceを設立しCEOに就任(撮影:梅谷秀司)

政府のお金は呼び水として重要だ

――そうすることで何がどう変わりますか。

これまではJAXAが技術開発の予算として出ているので、JAXAなどが「こういうミッションをやりたいのでこういう宇宙船をつくりたい」「こういうロケットをつくりたい」というところまで固めて、それを三菱重工業などに発注していた。そのため、技術開発は基本的にJAXA側が責任をもって全部やってきた。

これからは、そうではなくて、JAXAとしてはこういうミッションをしたいので、ここからここにこういう機器を輸送してほしい、というサービスを調達していく形にすればいい。そして、そのサービスを実現するためにどういう機体にするかといった技術面などは、企業側が責任をもって考えるようにしていく必要がある。

そうなれば、企業側もつくったサービス、プロダクトをJAXAにも売れるし、他のところにも売れるので、ROI(投資収益率)を高めていくことができる。政府が初期のお客さんになってくれれば、他のお客さんも付きやすくなる。政府のお金はそのための呼び水にしていく使い方にすることが、重要なポイントなのではないかと思う。

(前編:「宇宙ベンチャー『ispace』が月面着陸で目指すもの」

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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