「死にゆく姿をわが子に」乳がん末期34歳母の決意 最後は自宅で過ごす、その選択にある背景とは

✎ 1〜 ✎ 15 ✎ 16 ✎ 17 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

特に「これ以上、できる治療がない」という段階が近づくほどに、事実を隠していることにどうしても限界が出てきます。家族がどれだけ「大丈夫」「もうすぐ良くなるから」などと励ましの言葉をかけていたとしても、それが事実でなければ、次第にお互いに苦しくなってくるのです。

実際に陽子さんも、つらい症状と闘っているときに、「家族から『頑張って』と言われることがとてもつらかった」と、あとで明かしました。

自分ではなく、家族のために治療を

陽子さんは、がんの終末期の痛みやつらさと闘いながら、いろいろな病院に行っては、複数の医師の意見を聞いていました。私や家族から見れば、本人の意思で、何か期待を持っていろんな病院に行っているのだと思っていたのですが、陽子さんからすれば「頑張れ」という家族のためだったようです。

この頃の陽子さんは、痛みを抑える薬を注射で使っていました。注射の薬は、持続的に体に入っていきますが、急に痛みが出たときや痛みが強くなってきたときに対応できるように、患者さんがボタンを押すと追加で痛み止めの薬が使える仕組みになっています。

陽子さんは、押し寄せる痛みと闘うため、何度もボタンを押していました。ある時つらそうに、「この痛みって、病院に行ったら何とかなるのかな?」と私に聞きます。つらい症状が続いているなかで、自分の状況を知らずに闘い続けるのが、本当に本人のためになるのでしょうか……。

こうして会話ができる時間も、少なくなってきていると思った私は、家族に「もし本人が亡くなることをわかっていたら、例えばお子さんにビデオレターを残したいなど、やりたいことがあるかもしれない。本人に伝えることについてもう一度考えませんか?」と相談しました。

そして家族の同意を得たうえで、本人がどうしたいと思っているか聞いてみることにしたのです。

私は「このあいだ、病院に行ったら何とかなるのかな? と言っていたけれど」と前置きし、「今どういう状況か知りたい? もし、つらい話になったとしても知りたい?」と率直に尋ねました。陽子さんは、「うん、知りたい」と迷わず頷きました。

末期がんである現実を伝えたときの陽子さんの受け止めは、意外なほど冷静でした。家族は、陽子さんは末期がんである現実を受け止め切れないと思い、心配のあまり事実を伏せていたのですが、陽子さんからすれば「このつらさは一体いつまで続くのか」ということが、最大の恐怖だったようです。

命の終わりが見えることより、いつまで続くかわからないつらさのほうが怖くて苦しいというのは、陽子さんに限らず、これまで末期がんの患者さん複数から言われたことです。

「このつらさがずっと続くわけじゃないんだ」「ほっとした」「良かった」

本当につらい話だったと思いますが、陽子さんはこう言いながら、現実を受け止め、やわらかい笑顔を見せてくれました。

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事